自由な魂はライヴしか信じない――フミ斎藤のプロレス読本#090【サブゥー編エピソード10】
―[フミ斎藤のプロレス読本]―
199X年
サブゥーはライヴしか信じない。観客の目のまえで闘うからこそレスリングはレスリングなのだ、とサブゥーは考える。テレビのスウィッチを入れるとなんとなくそこに映っているプロレスなんて1セントの価値もない。サブゥーの試合は“小屋”で観るものである。
ミシガン州ランシングの自宅にいるときは朝から電話が鳴りはじまる。電話をかけてくるのはレスラー仲間かインディペンデント系のプロモーターたちで、ファイトマネーの支払いはキャッシュが基本。あまり字を書くのは好きではないが、ブッキングが決まれば手帳に日時、場所を記入しておく。
サブゥーがスポーツバッグのなかに無造作に放り込んであるスケジュール表には、聞いたこともないような団体名、スモールタウンの地名、プロモーターの電話番号などがびっしりと書き込まれている。
地元デトロイトにはICW(インセイン・チャンピオンシップ・レスリング)、UCW(アルティメット・チャンピオンシップ・レスリング)といったインディー団体がある。デトロイト・リバーを渡ってカナダ・オンタリオまで足を伸ばすとBCW(ボーダー・シティー・レスリング)というミニ団体が定期興行を開催している。
ラッパー・ユニットのICPがオハイオ州トレドでJCW(ジャガロー・チャンピオンシット・レスリング)なるラップとプロレスのコラボ団体を主宰しているし、同じオハイオにはIWA(インディペンデント・レスリング・アソシエーション)という団体もある。
ECCW(エクストリーム・カナディアン・チャンピオンシップ・レスリング)、NAWA(ノース・アメリカン・レスリング・アライアンス)なんてまぎらわしいネーミングの団体もある。
ECWアリーナで試合があるときはデトロイトからフィラデルフィアまで24時間、フリーウェイを突っ走る。飛行機だったらたった1時間半のフライトだけれど、自動車での移動だったら時間がかかる分、何人もの仲間をいっしょに運んでいける。ガソリン代と食事代は割り勘。デトロイト・エリアには闘うリングを探しているルーキーたちがたくさんいる。サブゥー・チルドレンが生まれはじめている。
全米各地のインディーズにはサブゥーのプロレスに心酔し、“自殺ダイブ”の完全コピーにトライしている若いレスラーが必ず何人かいる。サブゥーはそんなヤングボーイズとの出逢いを大切にする。
サブゥーは束縛されることをなによりも嫌う。プロモーターとはあくまでも対等な関係であること。団体の“付属品”にならないこと。試合をするリングは自分で決め、自分が運転するクルマでそこまで行くこと。それが偉大なる伯父“アラビアの怪人”ザ・シークの教えである。
アメリカのレスリング・ビジネスの政治的な状況を考えると、このモットーをしっかりと守った場合、上がれるリングはかなり制限されてくる。2大メジャーリーグのWWEとWCWはいわゆる“契約社会”で、所属選手のリングネームからコスチュームの色やデザイン、コンセプト・ワーク、必殺技の正式名称に至るまでその版権、著作権、知的所有権を団体サイドが保有する。
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