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新日本プロレス VS UWFインターナショナル全面戦争――フミ斎藤のプロレス読本#106【特別編】新日本プロレス対UWFインターナショナル全面戦争

 いつのまにか、佐野は3カウントのフォールで勝負を決めていた。  リングサイドから全試合を観戦したアントニオ猪木は「(選手たちは)訴え方を問われていた」と団体対抗戦を総括した。  プロレスラーは、“やる側の立場”からプロレスというジャンルの本質を模索する。“観る側”は、リングの上で起こっていることをもとにプロレスと接している。だから、試合が終わっても、観る側=観客の五感のなかのプロレスは終わらない。  6万7000人の観客がいれば、6万7000通りのプロレスの見方がある。プロレスとのかかわりに、こうでなければならないという公式はない。なにを、どうみて、どう感じて、どんな結論を導きだしたってかまわない。  新日本プロレスとUインターのぶつかり合いは、根本的にはプロレスと観客の知恵くらべだった。UWF信者層は頭から湯気を立てて怒るかもしれないけれど、Uはプロフェッショナル・レスリングの数あるセクトsectのなかのひとつでしかなかった。  新日本信者、猪木信者もいれば異種格闘技信者もいる。東京ドームのなかにはきっと全日本プロレス信者、ジャイアント馬場信者、女子プロレス信者もいただろう。  アストロビジョンに映っている映像は同じでも――まったく同じシーンをまったく同時に目撃したとしても――観客ひとりひとりがそこから受けとるメッセージは千差万別のほうがいい。  武藤敬司と高田延彦の闘いは、新日本とUの勝負ではなくて、ふたつの宝石のうちのどちらがより光り輝いているかのくらべっこだった。  憂うつさをリングに持ち込んだ高田は、この日はスターとしての光を失い、花道で“ヤッホー”のポーズを決めた武藤は“十三万四千の瞳”を一身に浴びて艶やかな身のこなしを披露した。  入場シーンから試合終了のゴングまでのあいだに発生した“ムトー・コール”は全部で6回。そんなマニュアルはどこにも用意されていなかったのに、ほとんどの観客は知らず知らずのうちに武藤を円の中心にしてリングの上をながめていた。  武藤が足4の字固めで高田からギブアップを奪った瞬間、坂口征二・新日本プロレス社長が「よかった、よかった」と大はしゃぎで頭のてっぺんのほうで拍手をしながら三塁側ベンチ――ぼくもこの位置からリングと液晶ビジョンの両方をみながらノートを取っていた――からリングに向かって駆け出していった。  敗者・高田が潔く武藤の手を高だかと差し上げると、ここで初めて“タカダ・コール”が起きた。プロレスはまたしても観客に応用問題を突きつけてきた。  試合後の武藤のコメントは「あー、久しぶりに緊張しちゃった」だった。 ※文中敬称略 ※この連載は月~金で毎日更新されます 文/斎藤文彦
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