自宅療養中のショーン=シックスの“月曜の夜”――フミ斎藤のプロレス読本#104【ショーン・ウォルトマン編エピソード4】
―[フミ斎藤のプロレス読本]―
199X年
ショーン・ウォルトマンは家でじっとしている。また首をケガした。医学的には第5、第6ケイ椎ねんざ。プロレスラーの言語ではファックト・アップ・ネック。
まえにいちど首がグキッといったときはカイロプラクティックの先生になんとかしてもらったけれど、こんどのグキッは神経にダメージがきた。
ヘンな角度で頭から落ちたとか、どのバンプが致命的だったとか、そういうことではなかった。ちいさな衝撃の蓄積がある日、手足のしびれとなって表れた。けっきょく、大きな病院で手術を受けることになった。
あんまり家にばかりいると、だんだんと家にいる自分がフツーの自分になってくる。基本的にプロレスラーは1年じゅう旅をしている。スーツケースのなかにはスーツケースのなかに収まるだけの日常みたいなものがつまっている。
だから、ツアーとツアーのあいまに家に帰ってきても――洗たくをしなければならない汚れもの以外は――スーツケースの中身はスーツケースの中身のままベッドルームの床にどさっと放置される。
手術は思っていたよりもかんたんに終わった。オペレーションというよりは、巨大なレントゲン室のようなところに寝かされて首のまわりをステンレスの棒でなんどかチクチクされただけだった。
首はなんとか左右にちゃんと動いてくれるし、いまのところ痛みもしびれもない。でも、プロレスはまだできない。
ショーンは家のなかでひたすらおとなしくしていて、黒のキャンバス地のスーツケースはフタが開けっぱなしのままベースメントにころがっている。家で暮らすようになってまる3カ月が過ぎた。
朝から晩まで家にいるようになってみると、家には家の日常があった。長男ジェシーは自己主張のできる5歳の男の子で、長女ケイトリンはもうすぐ3歳。ワイフのテリーさん用の目覚まし時計がベッドのよこで午前6時ちょうどに鳴りはじめると、それが1日の試合開始のゴングになる。
ジェシーとケイトリンの朝食の準備をして、キッズのめんどうをみながら自分も急いでなにかを食べて、ざっとそのへんをおかたづけして、シャワーに飛び込むころになると、こんどは家じゅうの電話が鳴りはじめる。
ネール・アートのショップを経営してるテリーさんは、みんながまだ寝ぼけているうちに家を出ていってしまう。ウォルトマン家の朝はこんなふうにしてはじまる。
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