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これがそうだとしたらスターなんて退屈じゃん――フミ斎藤のプロレス読本#105【ショーン・ウォルトマン編エピソード5】

これがそうだとしたらスターなんて退屈じゃん――フミ斎藤のプロレス読本#105【ショーン・ウォルトマン編エピソード5】

『フミ斎藤のプロレス読本』#105 ショーン・ウォルトマン編エピソード5は、「これがそうだとしたらスーパースターって退屈じゃん」というショーン=シックスのつぶやき(Photo Credit: Bill Otten)

 199X年

 バックステージといわれているところは、みんなを困らせるための迷路みたいなものなのである。アリーナ席のちょうど裏側をぐるっと一周できるような形でグレーのセメント色の細長い通路がどこまでもどこまでもつづいている。

 ちゃんと首からIDカードをぶら下げておかないと太ったセキュリティー・ガードがすぐに飛んできて“身元”のチェックが入る。

 そのへんをなんとなくうろうろしていると“立ち入り禁止Authorized Personnel Only”のサインが貼られたぶ厚い鉄のドアに出くわしたりする。

 そのなかにいったになにがあるのかは知らないけれど“立ち入り禁止”というからには“立ち入り禁止”なのだろう。窓ひとつないコンクートの壁だけのひんやりとした小道をまっすぐに進んでいくと、こんどは“プロダクション・ルーム”とか“医務室”とか、仮設のケータリング・ラウンジなんかが現れる。

 ここまでたどり着くと、ショーン・ウォルトマンは“3年B組”のホームルームをやっとみつけた転校生みたいな気持ちになる。

 シックスと呼ばれるようになったのは、ショーンが名なしのプロレスラーだったからだ。いちばんはじめのリングネームはライトニング・キッドで、WWEのオフィスがつけてくれた“商標”が1-2-3キッド。

 WCWに移籍したときは本名のショーン・ウォルトマンのままリングに上がることも考えたけれど、けっきょく“ナンバー6”のシックスになった。

 兄貴分のケビン・ナッシュとスコット・ホールは、WWE時代のキャラクター・ネームだった“ディーゼル”と“レーザー・ラモン”をポイッと捨ててビーイング・ゼムセルブスBeing themselvesになった。

 nWoの番付はいちばん上から“ハリウッド”ハルク・ホーガン、ナッシュ、ホールの順。シックスのすぐまえにはマネジャーのテッド・デビアスとボディーガードのビンセント(前名バージル)がいるから、シックスのポジションは6番めということになる。

 1-2-3キッドの1-2-3を足し算すればシックスだし、Syxxという洒落たスペルも悪くない。みんなとおそろいのnWoの黒のTシャツの背中にはビリヤードの“6番ボール”のイラストを入れた。

 nWoがここまで大ヒット商品になるなんて予想もしていなかった。たぶん、いちばんビックリしているのはシックスを演じているショーン自身かもしれない。ほんとうは新しいリングではナッシュ、ホールとの仲よしトリオで“ウルフパック”を名乗るつもりでいた。

 純日本的な表現を用いればちょうど影絵のキツネにあたる指ポーズは、ナッシュとホールとショーンの3人にしかわからないおまじないのようなものだ。“アメリカン・ヒーロー”ホーガンがまさかのヒール路線を選択し――ウルフパックになるはずだったものが――新ユニットnWoに化けるなんてまるで想定外だった。

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ショーンは、プロレスさえあればなにもいらない人間である

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