サンドマンは自堕落、自暴自棄、そして自己陶酔――フミ斎藤のプロレス読本#113【ECW編エピソード05】
人間のダメなところ、弱いところをストレートに表現するとサンドマンのようなレスラーができあがる。ビールのイッキ飲みをやったあとで、口のなかに残っていたビールを観客に向かってバーッと吐き出す――。
「それがまたウケちゃってね。はじめのうちはオレも信じられなかった。なんて不思議な光景だろうと思った」
ECWアリーナという空間で過ごす夜は、そこにいるオーディエンスにとってはタイムワープとか幽体離脱とか、この世のできごとではないようなカルトな時間である。
ウエートトレーニングなんてほとんどやらないしジムにも通わない。少年時代からフットボールを15年間プレーしたというけれど、アスリートとしての資質は平均点くらいだし、体つきや筋肉にこれといった特徴があるわけでもない。
レスリングそのものの技術だってそれほどのものとはいえないし、インサイドワークが天才的かといえばそうでもない。ちょっと意外な感じではあるけれど、シラキュース大学の経済学部をちゃんと卒業している。
ただ、体のなかから湧き上がってくるリズムが完ぺきにプロレスなのだ。タバコのふかし方、ビールのイッキ飲みのモーションもそれだけで立派にプロレスになっている。そして、とにかく無茶苦茶に暴れまくる。
どうしてサンドマンのようなキャラクターがいきなりオーバーした(人気が出た)のか――? それは、だれでもサンドマンのようなオッサンをひとりくらい知っているからだった。
どこに住んでいて、どんな仕事をしていようと、すぐそばにサンドマンのような男がひとりくらいいる。近所の居酒屋に行ってみれば、きっとカウンター席にサンドマンがいて、真っ昼間から気持ちよさそうにビールをあおっている。
悪い人間ではないし、話してみればユーモアもあるし、たぶんやさしいところもある。でも、どうしようもないくらい自堕落で自暴自棄なただの酔っぱらい。
ECWアリーナにやって来るハードコア・マニアたちは、サンドマンのなかに自分自身を発見しているのである。
※文中敬称略
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文/斎藤文彦
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