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レイヴェンはとびきり不良でとびきりハードロック――フミ斎藤のプロレス読本#112【ECW編エピソード04】

レイヴェンはとびきり不良でとびきりハードロック――フミ斎藤のプロレス読本#112【ECW編エピソード04】

『フミ斎藤のプロレス読本』#112 ECW編エピソード4は、とびきり不良でとびきりハードロックなレイヴェンの心の叫び(Photo Credit:Linda Roufa)

 199X年  レイヴェンは、オフスプリングの“カム・アンド・プレイCome And Play”という曲に乗ってリングにやって来る。  “カム・アンド・プレイ”はストリート・ギャングの争いに巻き込まれて死んでいくストリート・キッズのはかなさ、悲しさを歌ったグランジ・ロックである。  学校やネイバーフッドで少年たちがつくっているちいさな社会はずいぶん荒れている。レイヴェンというレスラーのキャラクター設定はそのあたりにある。  レイヴェンRavenとは“真っ黒なカラス”“渡りガラス”。“略奪する”とか“(えさを)あさり歩く”とか“ガツガツ食う”といった意味の動詞としても用いられる。  いつも着ているのは黒のライダース系の革ジャンとハサミで切ったデニムのショーツ。インナーは袖を肩のあたりから切り落としてタンクトップの形にしたハードロック系の黒のTシャツで、腰にはボロボロのネルシャツを巻いている。  コスチュームらしいコスチュームは、グランジのふだん着だけ。ゴングが鳴るとTシャツとデニムだけで闘う。試合のベーシックな動きは殴る、蹴る。こだわりの必殺技は、ジェイク“ザ・スネーク”ロバーツのそれにインスパイヤされたというイーブン・フローDDTだ。  ここにたどり着くまでに8年という時間を要した。プロレスを習った場所はラリー・シャープ主宰の“モンスター・ファクトリー”。  テネシー、フロリダ、オレゴン、ダラスGWF、WCW、WWE、全日本プロレス、W★ING。1995年1月8日、ふらりとECWアリーナにやって来た。  いろいろなリングネームを名乗った。いちばん初めがスコッティ・ザ・ボディー。WCWではスコッティ・フラミンゴ。WWEにいたときはジョニー・ポロ。  どれもこれも第三者の選択。ちょっとずつレイヴェンのアテテュード(姿勢、心がまえ)からは外れていた。レイヴェンは、レイヴェン自身が温めに温めに温めておいた主人公の名前だった。  その由来はエドガー・アラン・ポーのポエムで、“死”“荒廃”“狂気”“強迫観念”がモチーフになっている。  ――主人公がある男を殺してしまった。その夜からだれかが玄関のドアをノックする音が聞こえるようになった。カラスのレイヴェンはその主人公の良心……。レイヴェンはこの詩を少年時代に読み、それ以来、このテーマが頭から離れなかったのだという。  1990年代のアメリカの反社会的パーソナリティー。社会にフィットしない、フィットできない“自分”。社会が求めている自分になれない“自分”。壁の向こう側に行けない“自分”。  ――ハイスクールを卒業しなさい。大学へ通いなさい。サクセス、サクセス、サクセス。社会は朝8時に起きて、心のなかでは眠りながら、夜まで働く人間を欲しがっている。
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レイヴェンはどこにも属さない、属せないアウト・キャスト
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⇒連載第1話はコチラ

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