ポール・Eの“ジョイン・ザ・レボルーション”――フミ斎藤のプロレス読本#111【ECW編エピソード03】
―[フミ斎藤のプロレス読本]―
199X年
いちばん初めのスローガンは“イッツ・ノット・フォア・エブリバディIt’s Not For Everybody”だった。いったいなにが“みんなのものではない”のかといえば、ECWのことである。
ポール・Eことポール・ヘイメンはもともと他者とのコミュニケーションがあまり上手なほうではなかった。どちらかといえば、自分の考えを一方的にまくしたてておいて、相手が理解できなかったら、それはその相手が間抜けだったのだと結論づけてしまうタイプなのかもしれない。
でも、それではとてもじゃないけれどみんなから慕われ、尊敬されるリーダーにはなれない。ポール・EはECWの運営会社HGG(ヘイメン・ヘイツ・ゴードン)の社長である。ちょうどWWEの親会社としてタイタン・スポーツ社(当時)が存在しているのと同じようなメカニズムと考えればわかりやすい。
ただし、HHGには正社員なんてひとりもいないし、じつはちゃんとしたオフィスだってない。とりあえず、お金の“イン”と“アウト”に関してなにがなんだかわからなくなってしまわないように銀行口座だけはひとつにしておく必要があった。HHGとはECWのおサイフのことである。
たぶん、ポール・Eには会社を経営しているという感覚はほとんどないのだろう。月曜から金曜まではほとんどスタジオ――ポールの実家のベースメント――にこもりっきりでECWのテレビ番組をつくっているし、そうじゃないときは会場販売用のオフィシャル・ビデオの編集にかっかりきりになっている。
もちろん、こういった時間のかかる作業と同時進行で週末ごとのライヴの日程や前売りチケットのハンドリングもしなければならないし、ボーイズとの打ち合わせもしておかなければならない。
電話はひっきりなしにかかってくる。悪党マネジャー、ポール・E・デンジャラスリーのギミックはトランシーバーみたいな旧式の携帯電話だったけれど、団体オーナーのポール・ヘイメンも1日じゅうセルフォンを耳に押しつけている。
プロモーター、プロデューサー、ディレクター、そしてブッカー。なにからなにまで自分でやらないと気がすまないほうだから、いつ血管がブチ切れてもおかしくないくらいのテンションで毎日を生きている。
ボーイズとはボーイズがよく理解できる言語でコミュニケーションをとらなければならない。“イッツ・ノット・フォア・エブリバディ”でわかってもらえなかったら“イッツ・フォア・ザ・ハードコアIt’s For The Hardcore(ハードコアなファンのため)”である。
ポール・Eは、ハードコアな観客のためにありとあらゆるハードコアな試合をクリエイトし、パブリック・エネミー(ロッコー・ロック&ジョニー・グランジ)、サンドマン、タズといった新キャラクターをプロデュースした。
ふたつめのスローガンは“ポリティカリー・インコレクト・アンド・デム・プラウド・オブ・イットPolitically Incorrect And Damn Proud Of It(政治的・思想的には不適切、でもそれが誇り)”。
3つめが“ジョイン・ザ・レボルーションJoin The Revolution(革命に参加せよ)”。ECファッキンWのリングに上がっているボーイズはみんな、この3つのスローガンとその意味をしっかりと頭にたたき込んでいる。
やっている側のコンセプトがはっきりしてくれば、観ている側もそれに触れ、惹かれ、魅せられ、ぐいぐいと引き込まれていく。
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