類は友を呼ぶフィラデルフィアのECWアリーナ――フミ斎藤のプロレス読本#116【ECW編エピソード08】
ある日、ポール・Eは“ポール・E・デンジャラスリー”としてフィラデルフィアのビンゴ・ホールに来ていた。ほんの数百人ではあるけれど、お客さんもすでに入場していた。ボーイズもドレッシングルームで試合の準備をしていた。
でも、マッチメーカーの姿がみえない。プロモーターのタッド・ゴードンが青い顔でそこらじゅうを行ったり来たりしていた。
レスラーの数は約20人。予定カードは全6試合。T・ゴードンはポール・Eに「これで料理を作ってください」と“包丁”をあずけた。これがECファッキンWのルーツということになる。
類は友を呼ぶ、じゃないけれどポール・Eのまわりにポール・Eと同じようなプロレスのハートを持った仲間たちが集まってきた。サブゥーはサブゥーとはどうあるべきかを考え、レイヴェンはレイヴェンになりたくてレイヴェンの道を選び、サンドマンはサンドマンらしくふるまっているうちにサンドマンになっていった。
根っからのプロレス少年たちは、天にあられる存在からの啓示を待った。“生ける伝説Living Legend”テリー・ファンクがECWアリーナにやって来た。
タズの十八番はタズミッションとタズプレックスで、イリミネーターズ(ペリー・サタン&クローナス)の必殺技はトータル・イリミネーション。トミー・ドリーマーはトミー・ドリーマーづくりに励んでいる。アイディアは泉のようにわいてくる。
気がつくと、ECWそのものがムーブメントとして動きはじめていた。
ポール・Eは、プロレスらしいプロレスをプロレスらしい空間でプレゼンテーションしたいだけなのである。場末のビンゴ・ホールの秘密めいた集会は、もう1200人のコアな常連客だけのものではない。
秘密は秘密でなくなったとたんに羽が生えてどこまでも飛んでいく。中古のTVカメラとケーブル端子の向こう側にはもっともっと大きな世界が広がっている。
ECWアリーナなんて名の建物はこの世になかったけれど、革命の聖地がECWアリーナになった。PPV(ペイ・パー・ビュー)の電波に乗ってアメリカじゅうに飛んでいったのは、プロレスを心から愛する“少年のまなざし”だった。
※文中敬称略
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文/斎藤文彦
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