ECファッキンWの“隠し玉”クリス・ジェリコ――フミ斎藤のプロレス読本#115【ECW編エピソード07】
―[フミ斎藤のプロレス読本]―
199X年
「クリス・ジェリコって知ってるか?」
ポール・ヘイメンは、どうだ、すげえだろ、エッヘンと胸をはった。かれこれ1年がかりで連絡をとりつづけて、やっとつかまえた“秘密兵器”なのだという。
カナダ・カルガリー出身の25歳で、キャリアは5年。髪はブロンド。カルガリーのレスラーだから、コスチュームはもちろん革のベストとロングタイツ。
ホームリングはいまのところジャパンのインディー系団体。ようするに、WARのリングで闘っているライオン・ハートである。
ECファッキンWが探していたのはロウ・タレントraw talent(才能の原形)。まるっきりのルーキーではなくて、すでに何年かのリング経験を積んでいるプロフェッショナル。
アメリカでの露出はできるだけミニマムで、仕事ができて、グッド・ルッキング。でも、そんなおあつらえ向きのレスラーなんてなかなかいやしない。
ポール・Eは、ジェリコのパブリシティー・フォトをながめてはウキウキしたり、うっとりしたりしていた。
カルガリー・スタイルの最高傑作といえばダイナマイト・キッドと“ヒットマン”ブレット・ハートに決まってる。もちろん、クリス・ベンワーもかなりすごい。
カルガリーから出てくるボーイズはハードワーカーで知られている。みんな、どういうわけかロングタイツに“お星さま”をつけている。
ジェリコはカルガリー・スタイルの正統な継承者のひとりではあるけれど、キッドやヒットマンの直系の弟子というわけではない。中学、高校時代にあこがれたのは、どちらかといえばオーエン・ハート、ベンワーあたりの世代のレスラーたちだった。
ジェリコがプロレスラーになろうと決心したのはオーエンが相手レスラーの背中の上でバック宙をキメたのを目撃した瞬間だった。キッドとベンワーの師弟関係はすいぶんあとになってから知った。
プロレスを習おうと思ったときは、カルガリーの老舗団体“スタンピード・レスリング”はすでに消滅していた。
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