ジャイアント馬場さんの“夕食は永田町で”――フミ斎藤のプロレス読本#146[馬場さんワールド編1]
馬場さんはお友だちのクニマツさんのことを話していた。きっと、国松彰さんのことだ。プロ野球の読売ジャイアンツOB。背番号“36”。ON全盛時代の5番バッター。丸メガネの外野手。劇画『巨人の星』では花形満のホームランをつかみとった男である。
馬場さんは最近、あるパーティーの席上で国松さんから「プロレスラーって意外とちいさいんだね」といわれて困ってしまった。
体の大きい若者、才能のある運動選手はみんなほかのスポーツに持っていかれる。国松さんは「いまは野球じゃなくてサッカーでしょ」と、そんなことをぽつりぽつりとしゃべったらしい。
馬場さんは「おれはなんもいえんかった」といって苦笑する。ジャイアンツのユニフォームは、馬場さんの青春時代の勲章のひとつ。ジャイアント馬場の“ジャイアント”は“ジャイアンツ”の単数形でもある。
食事がすむと、テーブルにコーヒーが運ばれてきた。馬場さんのコーヒーはブラック。お砂糖の代わりにイクォル(甘味料)をひと粒落とす。ミスター馬場が黙り込んでしまうと、元子さんも京平さんも自分たちからはそんなに積極的にはおしゃべりをしない。
頭の上のほうでは聞こえるか聞こえないかわからないくらいのボリュームでクラシック音楽がかかっていて、近くのテーブルからは食器とシルバーウェアが軽くぶつかるカチャ、カチャという音、笑い声なんかがもれてくる。
馬場さんは、プロレスというスポーツを団体競技ととらえている。レスリングは個人種目だけれど、全日本プロレスはあくまでも団体だから、そこで起こるもろもろのできごとは団体のフィルターのなかで解決・処理されていく。
団体生活の基本はチームワーク、フェアプレー、ギブ・アンド・テイク。監督の仕事は、選手たちの体と心のコンディションをよく知ること。全日本プロレスのカラーは奥ゆかしさ、謙虚さ、そして慎み。
コーヒーに飽きた馬場さんは、抹茶のアイスティーを注文した。
※文中敬称略
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文/斎藤文彦
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