ジャイアント馬場さんの“夕食は永田町で”――フミ斎藤のプロレス読本#146[馬場さんワールド編1]
―[フミ斎藤のプロレス読本]―
199X年
ジャイアント馬場さんは、細かく砕いたクラッカーのかけらをたくさん浮かべたパンプキン・ポタージュのスープを丸いスピーンでゆっくりと口に運んでいた。
大きめのダイニングテーブルの上座にはミスター馬場がいて、右どなりにはミセス馬場の元子さん、左側にはレフェリーの和田京平さんが腰かけている。
永田町のキャピトル東急ホテルは、トーキョーの心臓部のすぐそばの山王女坂(さんのうめさか)というゆるやかな坂道のてっぺんにある。裏手には日枝神社、2ブロック先には国会議事堂、国立図書館、最高裁判所などがでんとそびえ立っている。
時間がのんびりと流れ、クラシック音楽がよく似合う天井の高い空間。やわらかい明かりにつつまれたロビーには、頑丈そうなコーヒーテーブルとスクウェアなカウチがいくつもお行儀よく並べられている。
馬場さんご夫妻は、このホテルをリビングルームがわりにしている。
スープのあとはコンビネーション・サラダ。サラダのあとはメイン・ディッシュ。馬場さんの目のまえに運ばれてきたのはフィレ・メニョーン。かんたんにいえば、ヒレ・ステーキだ。
お肉の焼き加減は、たぶんミディアム・レア。つけ合わせは、山のようなマッシュポテトとグリーンピース。元子さんが頼んだのはヒレカツとサイドオーダーの温野菜のプレート。温野菜はブロッコリ、カリフラワー、にんじんの輪切り。京平さんは黙もくとテリヤキ・ステーキにナイフを入れている。
キャピトル東急ホテルのレストラン“オリガミORIGAMI”をのぞいてみたら馬場さんがそこに座っているかもしれないなんて、ニューヨークのプラザ・ホテルかどこかでフレッド・アスティアかだれかが食事をしているところにばったり出くわすのと同じくらい非現実的な都会のおとぎばなしなのだ。
でも、これはファンタジーではない。馬場さんはたしかにそこにいて、お皿の上で逃げまわるグリーンピースをナイフとフォークですくい上げ、元子さんはステーキのよこにぐいっと置かれた温野菜のかけらをつついていた。
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