天才・武藤敬司が“異種格闘技戦”で小川直也を弄んじゃった――フミ斎藤のプロレス読本#160[新日本プロレス199X編05]
―[フミ斎藤のプロレス読本]―
199X年
それは「オマエなんかひっこんでろ」というアルティメータム=最後通告みたいな“ピューッ”だった。
グレート・ムタの毒霧で、アントニオ猪木の顔がグリーンに染まった。黒と白のストライプのレフェリー・ジャージを着た猪木の出番はほんとうにその一瞬だけだった。
ムタ、というよりも武藤敬司は“猪木ブランド”をなんとも思っていない。
異種格闘技戦は、プロレスというジャンルのなかのひとつのスタイライゼーション=様式。プロレスラーとプロレスラーではない格闘家とがプロレスのリングで顔を合わせるとそれはすべて異種格闘技戦になるけれど、異種格闘技戦とは異種格闘技戦という様式のプロレスである。
柔道着を身につけてリングに上がっている小川直也の肩書はカッコ付の“柔道”。“プロ格闘家”なるフレーズには、プロレスラーでもプロ柔道家でもないなにか、というどこかあいまいなニュアンスがこめられている。
グラウンドのポジションで下になった小川の首には、いつのまにかみずからの黒帯が巻きつけられていた。“凶器”を使っての首絞め、裸絞めのたぐいはプロレスでも柔道でももちろん立派な反則だ。
でも、ムタはありとあらゆる反則攻撃を使う怪奇派レスラー。プロレスの試合では(レフェリーの)カウント5以内の反則は反則にならない。それが異種格闘技戦であってもフツーのプロレスであっても、ムタがムタであることに変わりはない。
武藤はいやらしいくらい巧みに“グレート・ムタ”を操っていた。いわゆる日本人的な感覚でとらえるならば、猪木に悪態をつく武藤はあまり好青年にはみえないけれど、猪木レフェリーの顔にいきなり毒霧を噴きかけるムタはとくに生意気でもなんでもない。
異種格闘技戦の闘い方にきれいも汚いもない、というのが武藤の主張だったのだろう。レスリングで勝負するつもりならそうするし、反則が使えるならやっぱり反則を使っちゃう。武藤もムタも、プロレスラーとしては頭脳派であり、すれっからしでもある。
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