天才・武藤敬司が“異種格闘技戦”で小川直也を弄んじゃった――フミ斎藤のプロレス読本#160[新日本プロレス199X編05]
ムタ―小川戦が4万3500人の大観衆の審判を仰いでいるころ、いつもナゴヤドームをホームリングにしている中日ドラゴンズは、東京ドームで読売ジャイアンツと闘っていた。
ジャイアンツのピッチャーは斎藤雅で、ドラゴンズの先発は山本昌。“四番バッター”清原が12年連続の20号ホームランを打ったけれど、ジャイアンツはまた負けた。
東京のおとなりの千葉では、オレンジ色のゴーグルをつけた千葉ロッテ・マリーンズのエース小宮山がマリン・スタジアムのマウンドに立っていた。日本じゅうでエリート・アスリートたちがいろいろな自己主張をしていた。平成9年8月10日はそういう日曜日だった。
ムタはストレートの直球やフォークボールでは勝負しない。頭のなかで思い描いたとおりに体が動くプロレスラーである。柔道界の権威主義の象徴といってもいい“黒帯”でさんざん小川の首を絞めたあとは、柔道着の胸ぐらをひっぱり込んで背負い投げを決めてみせた。
小川が重心を低くしてディフェンスの体勢に入ると、こんどは袖の下あたりをぐいっとつかんでのアームドラッグ(巻き投げ)で“柔道世界一”をくるりと宙に舞わせた。
クライマックスはやっぱり“毒霧ピューッ”のワンシーンだった。柔道殺法にこだわる小川は、ムタの首に両足を巻きつけての下からの三角絞めを狙ったが、「あっ」と思ったときには小川の顔がグリーンの毒霧まみれになっていた。
フィニッシュは、人さし指と中指の指関節をロックしながらの腕ひしぎ逆十字固め。5.3大阪ドームでの橋本真也との試合のときと同じようなシチュエーションで小川のセコンドのタイガーキング(佐山聡)がリング内にタオルを投入し、ムタのTKO勝ちが決まった。
ムタ、というよりも武藤は異種格闘技戦にも“なんでもあり”にもあまり興味を示さない。
プロレスのことはプロレスラーが考えるのがいちばん正しいに決まってる。武藤は“猪木ブランド”をほんとうになんとも思っていない――。
※文中敬称略
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文/斎藤文彦
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