蝶野のアジェンダ「無国籍みたいな感じじゃないスか」――フミ斎藤のプロレス読本#161[新日本プロレス199X編06]
リングに上がっていないときの蝶野は、ワイフのマルティナさんといっしょによく六本木あたりを歩いている。ツアーに出ているあいだは離ればなれだから、オフになるとこんどはふたりひと組のスケジュールがはじまる。
ワークアウトするのは麻布警察のすぐ裏にあるジムだし、食事はだいたい芋洗い坂付近。夜になるとピープル・ウォッチングをしにクラブへ出かける。
ウィークデーの夜に六本木でナイトクラビングしているような人たちは、ガイジンもジャパニーズもみんな無国籍人だ。蝶野もマルティナさんもそこでは群集の一部になる。
マサヒロ・チョーノはたまたま日本人で、マルティナさんはたまたまドイツ人。カミさんはあまりプロレスに関心がないから、ふたりの会話はふたりのあいだの会話になる。
おしゃべりをしているときは“保護色”を使ってその場の空気と同化する。
“黒”には“光りモン”が付きもの、黒のシャツにはゴールドとかシルバーとかのネックレスが定番と蝶野は考える。
プロレスラー蝶野の“黒”にちょうどよくはまってくれる極上の“光りモン”はグレート・ムタである。どちらかといえば、ムタもまたトーキョーの無国籍人である。
プロレスラーとしてのライフサイクルに“太く短く”と“細く長く”の二者択一があるとしたら、蝶野はこのふたつの道を欲ばりに同時進行で生きようとしている。“黒”になろうと決心した瞬間からすべてが“黒”になった。
「アメリカでやりてえなー」なんて思っていたらnWoが勝手に向こうから歩いてきた。ヤクザ・キックがWCWのTVショー“マンデー・ナイトロ”で“マフィア・キック”と訳された。
蝶野のプロレスは、いつもそのときそのときのちょっとした思いつき。その日のひらめきがそのシリーズのひらめきになり、やがて近未来のアジェンダ(行動計画・構想)も変わる。“黒”は無国籍レスラーの証(あかし)である。
※文中敬称略
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文/斎藤文彦
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