多くの人々は、自衛隊の撤退をそれほど気にしていない
ところで自衛隊の撤退については、現地の人々はどう受け止めているのだろうか。
「地元の人はそれほど気にしていない、というのが実感です。現地の人に自衛隊撤退の話をすると『えっ、撤退していたの?』と言われたくらいでした。現地の人はPKOに参加している部隊がどこの国の出身かなんて気にしていません。
自衛隊もPKOのブルーヘルメットをして、小さく日の丸を出しているだけでした。隊員の外見で、現地の人からは中国軍と思われていたかもしれません。私も現地ではよく中国人に見られるので……。当然、日本が派遣しているのは『軍隊』ではなく、憲法で交戦を禁じられた『自衛隊』であるなんてことは誰も知りません。
そもそも、PKO部隊そのものに好印象を抱いている人が少ないと思います。巨額の経費をかけてジュバに駐留して、いざという時には戦闘を止めることができなかったPKOに対しては、現地の多くの人が疑問を持っています」
JVCからの支援された学用品を受け取るマンガテン難民キャンプの子どもたち
昨年末、今井さんは南スーダンの首都ジュバ近郊の難民支援キャンプを訪れた。紛争により故郷を奪われた人々は苦しい生活を強いられていた。
「昨年末、ジュバ郊外のマンガテン国内避難民キャンプで支援活動を行いました。自衛隊の宿営地があった場所のすぐ近くです。キャンプには600家族以上の避難民が暮らしていました。ほとんどが女性と子どもです。JVCは昨年7月から、自炊するための鍋や、マラリアを予防するための蚊帳の配布、子どもたちには学用品の配布を行ってきました。
キャンプでの生活状況は厳しく、国連やNGOからの支援は十分ではありません。薪拾いなどでわずかな現金を稼いで主食のトウモロコシ粉を買っています。薪拾いは、小さな束で10南スーダンポンド(日本円で約6円)くらいにしかならないのですが……。紛争が収まらなければ故郷の家に帰るめどは立たず、避難民としての暮らしが続くことになります」
南スーダン情勢は、日本にほとんど伝わっていない
今井さんは南スーダン建国前からジュバで活動をしてきたが、昨年の「自衛隊日報」問題以降、急遽注目を浴びることとなった。メディアの取材がひっきりなしになり、衆議院予算委員会に参考人招致もされた。しかし日本は自衛隊の撤退以降、急激に南スーダンへの興味を失いつつある。
「自衛隊の撤退を決めたとき、政府は『南スーダンの国造りが新たな段階に入りつつある』ことも理由に挙げていましたが、『新たな段階』とは何だったのでしょうか? 南スーダンの状況は、その後もよくなっていません。石油の輸出がほぼ止まっており、事実上経済破綻しています。年率数百パーセントのインフレが起こり、国民の半数が食糧危機にあると言われています。
南スーダンは昨年大きくメディアで取り上げられましたが、注目されていたのは自衛隊の日報や、稲田さん(元防衛大臣)のことであり、南スーダンの惨状がきちんと報道されたとは思えません。現地の状況を取材した日本のメディアは非常に限られていました。とても内向きだと感じます」
日本政府は、日本人NGOスタッフの現地渡航を禁じている
難民キャンプのテントの中の様子。家具がほとんど何もない
今井さんはこう続ける。
「そもそも、日本政府はマスコミに対して『南スーダンは危険地だから入るな』との圧力をかけていたとも聞きました。NGOに対しても、政府の助成金を受けて南スーダンで活動をしている団体に対しては、日本人スタッフの現地への渡航を禁じています。世界最悪レベルの人道危機が起きているのに、日本人が渡航できず、現地で起きていることが日本に伝わりにくくなっています。
JVCは、政府からの助成は受けず一般の方々のご寄付によって南スーダンで活動しています。だからこそ、私が入国して現地の様子をその目で見ながら必要な支援を行うことができるのです。これからも皆さんの支援を支えに、現地の人びとの声を日本の皆さんに伝え続けようと思っています」
取材・文/白川愚童 写真/日本国際ボランティアセンター(JVC)