更新日:2022年12月17日 22:27
ライフ

搾取される自衛隊員「え? 官舎って現物支給なんですか?」

 計算の枠が数万円単位で変わるので一概に全員が値上げとは言えない部分もありますが、改正により、これまで長く年金を払ってきた人は、算定方法が変わったという理由で受け取る年金の額が減ります。これから年金を払っていく人は、有料官舎に入ると年金の掛け金の額が高くなり、手取りの収入が減ります。どちらに転んでももらえるお金が減るという仕掛けなのです。  官舎は修理修繕の費用がないのでボロボロのまま。なのに家賃を値上げして、現役世代の賃金から年金引き去り額を増やし、これまで払った分の年金をもらえるはずだった人たちには計算方法が変わったからと年金の総額を減らしてしまう。  大事なことなので繰り返しますが「どちらに転んでも、この現物支給という制度では自衛官がもらえるお金が減る」ということです。官舎は自衛官の福利厚生のために作られたはずのもの。その官舎費を値上げし、さらに福利厚生を利用すれば年金や健康保険費用を値上げするという発想は本末転倒です。例えは乱暴ですが「生活保護を受けたら収入換算して税金や保険料をがっつりとるぞ」というような訳の分からない話です(実際、生活保護受給者に税金はかかりませんし、保険料も取られません)。これは、厚労省の存在意義すら見失うような制度改悪と言えるでしょう。  官舎に入ったことがある人やこれから入る人は、厚生年金支給額の総額がどれくらい変わるのかということや、年金の支払額がどうなるのかを確認すべきです。  通常、結婚前の陸上自衛隊員の多くは営内で生活をします。この営内の隊舎は無料ですが、隊員しか入居できません。結婚したり、階級が上がったりすれば営内ではなく営外に住居を持つことができます。その家族と一緒に住む官舎は有料です。ここで厚生年金も上がるのです。外で暮らす隊員には営外手当がありますが、雀の涙です。結婚となると、経済的なことや体力的なこと、子育てや家族の病気時の世話などもできない不自由な勤務体系から離職を考える隊員も多くなります。 「きつい、帰れない、厳しい、危険な」職種なら、その仕事に見合った対価を出さなければ人は離職し、その仕事に就きたいと考える人も激減します。雇用が回復すれば、条件のいい仕事を探して優秀な人材が流れるのは当然のことです。残業手当も休日手当もないのですから、もっと支給額を多くしてもおかしくありません。自衛官の募集状況が危機的な理由の大部分は、その処遇の悪さによるものです。  国を守るという志の高い人達に十分な処遇も保障も与えず、結婚したらさらに搾取するような制度でいいのでしょうか? ただでさえ、自衛隊員の定年は50代半ばで、年金をもらうまでには10年弱の月日を過ごさなければなりません。若年定年給付金という補助的な制度はありますが、50代での再就職は大変厳しく、退職後に不安定な収入で苦労している人たちも多いのです。そんな人達にこの仕打ち。泣きっ面に蜂という言葉がありますが、泣きっ面に蜂、蜂、蜂、しかもスズメバチの大群の襲来です。  公務員は本当は労働組合を作ってはいけないのですが、自治労や日教組のような公務員の労働組合組織は存在します。しかし、自衛隊にはそんな組織はありません。労働組合がないからこそ、その待遇は保護されるべきなのに、自分たちを守る術を持たない自衛官はやられ放題です。経費を徴収し、訓練で使う備品は自腹、年金支払額も簡単に値上げされ文句をいう事もできません。これもまた「政治に関与しないことを宣誓」している職業ゆえの悲哀なのでしょう。  周辺諸国の脅威も増している昨今、危険な仕事を請け負ってくれる自衛隊員に対し、国は相応のねぎらいをかけるべきときじゃないかとおもうのです。搾取など論外です。早く憲法改正をして自衛隊を合憲化し、その身分を保障してほしいです。  この厳しい内外情勢の中で、自衛官の減少に歯止めをかけなければ我が国に未来はありません。自衛隊の安定は私たち国民の安全保障と強く結び付いています。日本の国が命と安全にかけるコストを惜しむ国であってはならないと思うのです。<文/小笠原理恵>
おがさわら・りえ◎国防ジャーナリスト、自衛官守る会代表。著書に『自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う』(扶桑社新書)。『月刊Hanada』『正論』『WiLL』『夕刊フジ』等にも寄稿する。雅号・静苑。@riekabot


自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う

日本の安全保障を担う自衛隊員が、理不尽な環境で日々の激務に耐え忍んでいる……

1
2
おすすめ記事