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乾貴士はW杯勝利のキーマン。代表落ちの危機を乗りこえた自信とは

世界最高峰の舞台がサッカー小僧を成長させていた

 ところが、この状況下で乾は思わぬ反応を見せた。Twitterでチームメイトと一緒にはしゃぐ写真を添え、「代表は外れたけど、今日も楽しんでいきましょー」と投稿してみせたのだ。  心配する友人やファンへ向け努めて明るく振る舞ったのかもしれないが、本大会が近づきナーバスになる状況下で、なかなかできることではないだろう。トップレベルで活躍する欧州や南米の代表選手たちであっても、SNSなどで選考に関する不満を吐露することは珍しくない。だが乾はそんななかでもずっと大切にしてきた「サッカーを楽しむ」というスタンスを崩さなかった。選考に一喜一憂せずにいられたのは、スペインで得た確かな自信があったからだ。

JMPA代表撮影(榎本麻美)

「スペイン人はホンマにみんなサッカーをよく知っているんですよね。そのなかでプレーしていてもちろん難しいと感じることもありますけど、毎日が充実しています。日々勉強になっていますし、自分のサッカー観みたいなものが広がっている実感もあります」  世界最高峰の舞台に立ち、成長できているという確かな実感を得て、乾はより芯の強い選手に成長していたのだ。

所属クラブにもスタッフにも感謝を忘れない男・乾貴士

 その後、突然の監督交代劇を経て、乾は無事にロシアW杯本大会のメンバー入りを果たした。シーズン終盤に右太ももを負傷し戦線離脱していたため、一部ではその選出を疑問視する声もあったが、ここでも乾は一切慌てなかった。国内最後のテストマッチとなった5月末のガーナ戦も欠場に終わったが、試合後のミックスゾーンに現れた乾は実に落ち着いていた。 「1日でも早く回復するためにやれることはすべてやってきましたし、今はもうほぼ100%まで戻ってきています。チャンスを貰えたらチームのために全力でプレーするだけです」  そう語った乾は、怪我の回復のために尽力してくれたスタッフの感謝も忘れなかった。

JMPA代表撮影(榎本麻美)

「最終節前に帰国して治療に専念することを認めてくれたクラブ(エイバル)にも本当に感謝していますし、ドクターやトレーナー、メディカルスタッフなど、本当にいろんな人たちが協力してくれたお陰で、当初の予想よりも早く回復できています。だからこそ、そういう人たちの分までやってやりたいという気持ちは強いです」  W杯のピッチに立つという夢はいつしか乾だけのものではなくなり、数々の逆境を乗り越えてきたことで「やってやる」というモチベーションもさらに大きく膨らんでいた。そんな乾の引き締まった表情のなかに、確かな自信と期待感を記者は感じた。  世界最高峰の舞台で主力として活躍し、大好きなフットボールをひたすら探求し続けた。難しい状況でも腐らず、目の前のことに集中し、一つひとつ積み上げることを決してやめなかった乾。  このグループリーグ2試合での彼の活躍は、決して偶然などではない。どんな時でも自分の道を極めてきたからこその、必然の結果なのだ。

JMPA代表撮影(杉山拓也)

 日本代表は今夜、決勝トーナメント進出を懸けて難敵・ポーランドと対戦する。決して簡単なミッションではないが、充実の時を迎えているサッカー小僧・乾の活躍にぜひとも期待したい。<取材・文/福田悠>
フリーライターとして雑誌、Webメディアに寄稿。サッカー、フットサル、芸能を中心に執筆する傍ら、MC業もこなす。2020年からABEMA Fリーグ中継(フットサル)の実況も務め、毎シーズン50試合以上を担当。2022年からはJ3·SC相模原のスタジアムMCも務めている。自身もフットサルの現役競技者で、東京都フットサルリーグ1部DREAM futsal parkでゴレイロとしてプレー(@yu_fukuda1129
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