更新日:2023年03月12日 09:05
ライフ

おしっこが近い、尿漏れでズボンが…中高年男性が直面する排尿障害

原因不明の体の痛みは排尿障害が原因!?

 そしてここからが最重要ポイントだ。なぜ排尿障害は、多くの病気や体調不良と繋がりがあるのか。それにはまず、“関連痛”という概念についての説明が必要だろう。よく知られている関連痛の例として、心筋梗塞がある。最初は胸の痛みから始まり、次に左手の小指の痛み、五十肩、歯痛など、神経が繋がっている部位に症状が広がっていく。患部である臓器や器官から発信された病的刺激は、神経を通って脳に伝達されるが、このとき刺激が多すぎると、別のルートの神経にまで信号が流れ込むことがあるという。  これと同じように、膀胱や前立腺の関連痛が、全身の思いもよらない場所で発生するというのだ。 「過去に排尿障害の関連痛として、慢性の胃痛を発症した47歳の男性がいました。私も当時はにわかには信じられなかったのですが、この患者さんもおしっこが出にくいという症状を訴えていたんです。そこで膀胱出口の石灰化した部分を削り取る手術をした結果、胃の痛みがすっかり改善し、関連痛が証明されました。さらに患者さんは、慢性的な肩こりと首が滑らかに回らないという悩みも抱えていたのですが、これも解消。肩と首も関連痛だったのでしょう」  さらに、排尿障害の治療によって、原因不明の顔面の痒みが治癒したという例もある。 「当時29歳の男性患者ですが、当初は陰嚢とペニスの痒みを訴えての来院でした。私の調査では、陰嚢に痒みを持つ患者の9割弱は排尿障害を抱えていますから、この患者さんにも排尿障害を改善するための薬を処方するアプローチを取りました。その結果、陰嚢とペニスの痒みは激減したのですが、両こめかみと両頬の痒みも消えたと言うのです。おそらく顔の痒みも関連痛だったのでしょう」  高橋医師によると、排尿障害によって死に至るような病気を発症するケースは考えられないそうだが、一方で、精神面で重大な影響を及ぼすこともある。 「男性の慢性前立腺患者の8割がうつ状態になり、自殺に走る人も少なくありません。『陰嚢が痒くてしょうがない』、『陰部が痛くて我慢できない』などと訴える患者さんに対して、大抵の病院はそれが排尿障害によるものだと認識できず、『気のせい』と突き返してしまう。その結果、患者はうつ状態を悪化させてしまうのです。男性ホルモンにはネガティブな感情を消し去る作用があるのですが、更年期が進むと分泌されないので、高齢者は要注意なのです」  ムスコの異変が全身の不調を呼ぶ……。中高年はご用心! 【高橋知宏氏】 ’52年生まれ。東京慈恵会医科大学卒業後、大学病院、救急病院を経て、’90年、東京・大田区に高橋クリニックを開業。独自の治療法を求め、国内外から年間8000人の患者が訪れる <取材・文/野中ツトム・福田晃広(清談社) 写真/PIXTA> ― 排尿障害クライシス ―
1
2
3
おすすめ記事
ハッシュタグ