更新日:2023年03月22日 09:56
ライフ

南極観測船「しらせ」を自衛隊の運用からはずす愚行

南極観測隊と、犬のタロとジロ

 南極観測隊というと「タロ」「ジロ」という犬を思い出す人がいるのではないでしょうか? 昭和21年に南極観測隊は始まり、我が国は昭和基地を建設しました。第1次、第2次越冬隊は様々な苦難から、当時の輸送手段だった樺太犬を置き去りにせざるを得ない事態となりました。1年後に第3次観測隊が奇跡的に昭和基地で生きていた2頭の犬を発見したのです(その秘話が『南極物語』(昭和58年)という映画となり、大ヒットしました)。  時代は変わり、現在の南極の昭和基地に人と物資を運ぶ文科省の所轄の南極観測船は、海上自衛隊が運航する「しらせ」となりました。南極条約の発効以降は、南極大陸への生き物の持ち込みは禁止され、南極に「犬」は持ち込めなくなりました。でも、南極の厳しい環境で生き残った「タロ」「ジロ」の2頭のことを偲んでか、南極観測船「しらせ」の艦内の隅に「タロ」「ジロ」と書かれた用具入れがひっそりと置かれています。
タロジロ

極観測船「しらせ」には、今も「ジロ」を偲ぶように名前の書かれた用具入れがある

 越冬隊に置き去りにされた「タロ」「ジロ」の名前のある用具入れが南極観測船「しらせ」にずっとあり、必ず「置き去りにされる」ことなく国に帰ります。南極観測船「しらせ」の乗組員の優しい気持ちが、そんなところにも溢れているかのようです。

南極基地から自衛隊が離れていいのか?

 南極観測船は様々な歴史を刻んでいます。  元海上自衛官で2度の南極への航海を経験し、2016年のオーストラリアの砕氷船「オーロラ・オーストラリス号」救出時にも南極観測船「しらせ」に乗組員として参加していた泊太郎氏は「きつい仕事に潰されない人のルール」をビジネス書にまとめています。 「南極大陸には国境はありません。南極観測を行う国々は互いに協力して、厳しい状況を乗り越えます。南極は助け合いの精神が発揮され、国は違えども真の友情が芽生える貴重な場所でもあるのです」と彼はその著作に残しています。「5カ月間も海の上」、「上官の命令は絶対」の雪と氷の極寒の地だから培われる「力」があるのだと思います。  オーストラリアと日本は南極を日本人が目指した頃から、お互いに助け合っています。初代南極観測船「しらせ」は昭和60年にオーストラリアの砕氷船を救出、平成10年にも同国の砕氷船を救出しています。代わりに、日本が砕氷艦を運行できない期間、日本の昭和基地への物資・人員の輸送をオーストラリアの砕氷船が助けてくれました。  2016年にオーストラリアのオーロラ・オーストラリス号が座礁した時は、乗組員を救出し、安全なケーシー基地まで送り届ける救助要請がありました。低気圧が迫る中、小型ヘリでオーストラリアの観測隊員を南極観測船「しらせ」に輸送する時間との勝負だったと聞きます。この時、南極観測船「しらせ」は帰還途中であったため搭載している大型ヘリは使えず、60人を3人乗り小型ヘリで繰り返し輸送する緊迫した作業だったそうです。しかし、日豪両国のこれまでの絆や経験の積み重ねでどうにか救助活動を達成し、目的地まで送り届けることに成功しました。  南極の資源や地政学的な特質が狙われています。自衛隊が南極基地の輸送から離れた後に自衛隊のように命をかけて我が国の権益を守れますか?  先人が命がけで守り抜いてきた南極です。「タロ」「ジロ」が見捨てないでと泣いている声が聞こえてくるようです。 ※「宇宙条約(通称)」の正式名称は「月その他の天体を含む宇宙空間の探査及び利用における国家活動を律する原則に関する条約」です。
おがさわら・りえ◎国防ジャーナリスト、自衛官守る会代表。著書に『自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う』(扶桑社新書)。『月刊Hanada』『正論』『WiLL』『夕刊フジ』等にも寄稿する。雅号・静苑。@riekabot


自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う

日本の安全保障を担う自衛隊員が、理不尽な環境で日々の激務に耐え忍んでいる……

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