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南極観測船「しらせ」を自衛隊の運用からはずす愚行

小笠原理恵「自衛隊ができない100のこと 57」

南極観測船「しらせ」は文科省の船だが、運用は自衛隊

南極ペンギン 「宇宙」と「南極」は条約で領域の軍事利用を禁止されています。「宇宙条約(通称)※」で宇宙の平和的利用について、「南極条約」で南極の平和利用についてのルールを定めています。どちらも平和利用は認めるが、軍事的な利用を禁止する共通点をもつ条約です。  しかし、まず宇宙条約に黄色信号がともり始めました。ロシアについで中国、インドなどが宇宙の衛星攻撃兵器の開発に踏み出しました。新たな防衛大綱で自衛隊も宇宙監視部隊を作ることになりました。宇宙条約がこの有様ですから、南極条約も同様な問題が噴出しています。豊かな鉱物資源などを求めて、様々な国が南極に進出し、排他的経済水域や領有権の主張を始めています。  2017年11月の人民網によると中国は新たに5番目の南極基地建設を予定しています。新しい基地は設計上、一年を通じて利用できるものであり、早ければ2022年には建設される計画です。  オーストラリアの有力シンクタンク豪州戦略政策研究所(ASPI)の2017年8月の報告書によると、「中国は軍事活動と鉱物探査を行い、領有権主張のための既成事実を作っている」とのことです。さらに、「中国の南極施設が中国軍の通信能力向上に大きな役割を果たしており、軍事活動を申告せずに行い、国際法違反の可能性がある」とも言っています。南極の領有権を巡る紛争を防いできた「南極条約体制」がいつまでその効力を発揮できるのかは未知数です。

自衛隊、南極観測船「しらせ」から撤退を検討

南極観測船「しらせ」

海上自衛隊が運用する南極観測船「しらせ」は、毎年、5か月かけて日本と南極間を往復している

 そのような中、4月28日の産経新聞で、「海自、南極観測から撤退検討 「しらせ」運用、人手不足で」と報じました。  自衛隊は新入隊員の募集がままならず、逆に人材流出が止まりません。とくに最も人員不足が顕著なのが海上自衛隊です。航海に出ると陸に降りることができず、家族との時間がとれず、隊員数不足で年休どころか代休すらまともにとれないブラック職業では仕方ありません。  海上自衛隊の艦艇勤務の人員不足を補うために、南極観測船「しらせ」に割いていた人員を護衛艦や潜水艦勤務に使いたいという思惑です。こんな急場しのぎの対策ではダメです。そのキツイ仕事に見合った賃金と待遇に改善すれば人材不足は解消するはずです。  しかし、我が国では公務員の給料を上げるとなると大反対が起きます。ケチで国防の任を負う自衛隊員数を維持できないのでは度量が狭すぎです。自衛隊員の賃金も防衛予算です。防衛予算の総額を2倍くらいにポンと上げる覚悟がなければ人手不足が改善されることはないため、撤退せざるを得ないのは悲しいことです。  南極の拠点は人の手で維持しなければ雪と氷に埋まります。その物資と人の輸送は命綱です。南極大陸までの海を海上自衛隊の運用する「船」で毎年往復することに政治・外交的な価値があります。今は南極の拠点を守り抜く気概がどこにも見えません。自衛隊を外すとは愚の骨頂です。
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南極観測隊の歴史と自衛隊の残した絆
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