エンタメ

<純烈物語>純烈のリーダーから見た騒動の裏側<第1回>

純烈名物「ラウンド」はプロレスがモチーフ

 じつはこの日、酒井は第1部が終了するやフジテレビへ移動し、リハーサルなしのぶっつけ本番で喋りの仕事をこなしてから大江戸温泉物語にUターン。そして第2部が終わったあともまた別の出演へと向かうスケジュールだった。さすがにこういうことは純烈結成以来、初めてだったという。  ムード歌謡グループ・純烈としてだけではなく、酒井にはそのトークスキルが買われた仕事も殺到する。「あとは頼んだから」とリーダーがタクシーに飛び乗った頃には、残ったメンバーの小田井涼平(48歳)、白川裕二郎(42歳)、後上翔太(33歳)がステージ上で撮影に応じていた。450人のオーディエンスのほとんどが列をなし、3人の中へ溶け込んでいく。メンバーはなんらかの形で、ファンの体を直接的に触れるようにしている。  肩を組む時もあれば、握手をしながらシャッターを押してもらう人もいる。撮影が終わったあともプレゼントを手渡したり、しばしの会話を楽しんだり……それらを一つひとつ流すことなく平等に心をこめてこなしていく。  この日のような健康センターでのライブとなると、最前列はステージと目と鼻の先。そして純烈には名物の「ラウンド」がある。一本のライブにおいて、必ず歌いながら客席を練り歩くようにしているのだ。酒井によるとこれはプロレスの場外乱闘がモチーフらしい。 「初期の頃から欠かさずやっています。場外戦って、投げた方よりも自分に近づいてきた投げられた選手の方が印象に残るじゃないですか。ずっとプロレスを見てきたんでこれだ!と思いましたよね。無名だった頃の僕らは、健康センターに来ていてたまたま見るようなお爺ちゃん、お婆ちゃんに憶えてもらわなければならなかった。それはただ唄を歌っているだけじゃダメなんです。  それで僕らの特色を考えたら、背だけでなく手も大きい。直接触れ合って、握手することで『大きな手をしているなあ』と印象に残る。だからラウンドは純烈にとって三種の神器ですよ。トーク、ラウンド、唄……いや、順番的にはラウンド、トーク、唄かもしれない」  ライブの中盤、4人はステージを降りると畳の上を黒い靴下でゆっくりと歩き始めた。待ってました!とばかりにオーディエンスの顔が笑顔に包まれる。娘と一緒に来たお母さん、年甲斐なくちょっとだけ色気づいた五十代のおばちゃん(酒井の言い回しにならう)、杖をつきながら座るお婆ちゃん、十代の若いお姉ちゃん、そして男性客も……まさに老若男女まんべんなく、たった一つの表情で一体化していた。  ファンにとっては、あこがれのメンバーが自分のところまでやってきてくれるのだから、ここぞとばかりに思いのたけを伝えようとする。つまり、会話を投げかけられる。ただ、言うまでもなくメンバーは絶賛歌唱中。つられてしまい、歌詞を間違えることはないのだろうか。 「最初は、目が合っただけで歌詞が飛びました。ましてや喜んでくれているのが嬉しくて、そっちに気がいって飛んじゃうんです。だから、お客さんとお客さんの間を見るようにしましたね。今は慣れたんで、ちゃんと歌詞と歌詞の間に会話ができるんですよ」  この日は3曲分ラウンドで回ったのだが、確かにマイクを通じてファンとの会話が聞こえるところは一切なかった。でも、よく見ると自分のパートではないところでちゃんとコミュニケーションを図り、しかもその内容でしっかりと一人ひとりを笑わせている。  小田井にいたっては、汗拭き用に差し出されたタオルを景気よくポーンと放り投げる。それを他の客が拾って持ち主に手渡すことで、ファン同士にも一体感が生じる。  客席を練り歩くうちに、手渡しの紙袋がどんどん増えていった。それを持ちながら歌い続ける光景は、ステージのみでパフォーマンスをやっていたらあり得ない。もう持ちきれないとなったところで、194cmの長身を誇るマネジャーの山本浩光がグーグル猫のように腰を低くして背後から近づいて受け取る。  もちろんメンバーは指定席だけでなく後方の立見スペースまでいった。観客も立ち上がって殺到するようなことはせず、自分のところへ来てくれるまで待っている。その間のドキドキ感がたまらないのだろう。
次のページ right-delta
最前列ド真ん中の青年に「男のパンツなんか見たくねえ!」
1
2
3
テキスト アフェリエイト
新Cxenseレコメンドウィジェット
おすすめ記事
おすすめ記事
Cxense媒体横断誘導枠
余白
Pianoアノニマスアンケート