<純烈物語>“日本一ヘタな”「ラブユー東京」を唄う理由<第2回>
‘18年大晦日に「紅白歌合戦」出場を果たし「紅白に出て、親孝行」という念願が成就。この世の春を謳歌していた、ムード歌謡グループ・純烈。しかしそのわずか9日後に発覚したメンバーの不祥事で事態は暗転、グループ存続の危機に立たされた。
純烈を結成、リーダーそしてプロデューサーとして苦労の日々を重ねてきた酒井一圭は、元々子役として芸能界にデビューし、戦隊ヒーロードラマなどで名を刻んだものの、その後鳴かず飛ばずとなった過去を持つ。後にプロレスと出会い、実際にリングに上がることで、その表現方法を純烈に昇華させている。その類まれな“人間力”はどこから生まれたものなのか。酒井本人やメンバーの現在と過去を行き来しながら、純烈の裏側を紐解くノンフィクション新連載―――酒井とともに「マッスル」に浸かってきたプロレスライター・鈴木健.txtが緻密な筆致で迫る。
ムード歌謡と言葉によるジャズのセッション
CDでは味わえぬトークというコンテンツ
酒井一圭が「ここで発表事があります」と口にしたのは、ライブの終盤に差しかかったあたりだった。改まった言い回しをされるとファンはドキッとするもの。ましてや5か月前にメンバーの脱退があったばかりとなると一瞬、身構えてしまう。
そうはさせないよう、酒井はすぐにくだけた口調へとチェンジし3人のメンバーに言葉をトスしていく。ほどよく純烈らしい雰囲気が戻ったところで、その発表はおこなわれた。
「本日より純烈のファンの皆さんをこう呼びたいと思います。女性は『純子』、男性は『烈男』です!」
自分たちのファンを特定の名称で呼ぶアーティストは多い。ももいろクローバーZは「モノノフ」、ゴールデンボンバーなら「金爆ギャ」、嵐は「ARASHIC(アラシック)」。TM NETOWORKが「FUNK+PUNK+FANS=FANKS(ファンクス)」とつけたのは、言葉遊び的にもカッコいいと思ったものだった。
こうした通称はアーティストサイドよりも支持する側が求める傾向にある。その方が一体感を得られるし、いわゆるファンとはまた違った特別な距離感でいられる。
そうした中、12年も活動を続けながら決まった呼び方がなかった事実こそ、むしろ不思議に思える。じっさい、酒井が必要以上のドヤ顔で(つまりは意図的に)宣言した瞬間、おおむね客席の反応は「ええっ、このタイミングで!?」というもので、すぐさまメンバーからも突っ込みが入った。
「2、3日前に思いつきました。氣志團やゴールデンボンバー、ももクロと共演する機会が増えて、氣志團の服を着ている『キッシーズ』の皆さんも撮影に来てくれるわけです。そういう時に『純烈のファンって、なんて呼んでいるんですか?』とよく聞かれて。僕はずっと、そういうのは邪魔くさい!って思っていたんですよ。ほかの人がやっているし……というのもあった。
でも、言われるうちにやった方がラクだなと思うようになって。たとえばフェスの場合はTシャツに運動靴で来てくれよと説明するよりも、こちらから気運を提供してあげた方が合理的でしょ。ツィッターを見ると、純烈に来るようなおばちゃんたちも“モノノフ”とかをちゃんと把握しているんです。それなら純烈でも成り立つなと」(酒井)
なんでもセルフプロデュースする性分の酒井が他者の流れに乗っかるケースは珍しい。だが、純子・烈男と呼ばれることでメンバーとのつながりがより強まるとあれば、ファンは喜んで受け入れる。
中でも本名がジュンコ、レツオの人はいても立ってもいられまい。などと思っていたら、本当に客席の一角から悲鳴のような声があがった。
「白と黒とハッピー~純烈物語」<第2回>
(すずきけん)――’66年、東京都葛飾区亀有出身。’88年9月~’09年9月までアルバイト時代から数え21年間、ベースボール・マガジン社に在籍し『週刊プロレス』編集次長及び同誌携帯サイト『週刊プロレスmobile』編集長を務める。退社後はフリー編集ライターとしてプロレスに限らず音楽、演劇、映画などで執筆。50団体以上のプロレス中継の実況・解説をする。酒井一圭とはマッスルのテレビ中継解説を務めたことから知り合い、マッスル休止後も出演舞台のレビューを執筆。今回のマッスル再開時にもコラムを寄稿している。Twitter@yaroutxt、facebook「Kensuzukitxt」 blog「KEN筆.txt」。著書『白と黒とハッピー~純烈物語』『純烈物語 20-21』が発売
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