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”バズる文章”の極意とは? 12万部「読みたいことを、書けばいい。」著者・田中泰延×pato対談

電通で24年間「売れる」コピーを生み出し続けた田中泰延氏(左)を、ネットバズの猛者・pato氏が直撃!

 電通のコピーライター、プランナーとして24年勤務した後2016年に退職、現在は「青年失業家」を名乗り、ウェブを中心に活動している田中泰延(ひろのぶ)氏。  世界のエンタメサイト「街角のクリエイティブ」内の連載「田中泰延のエンタメ新党」「ひろのぶ雑記」が累計330万PV を誇るほか、SNSでの含蓄深い発言もしばしば話題となっている。  そんな田中氏が6月、初の著書『読みたいことを、書けばいい。』(ダイヤモンド社)を上梓。文章を書きたい、何かを表現したい人々への金言が詰まった同書はAmazon総合1位、12万部のヒットとなった。  そして、当サイトで『おっさんは二度死ぬ』を連載中のpato氏が田中氏を直撃。  同じくテキストサイト時代から約20年にわたりインターネット上で執筆し、反響を得てきた身として「書くこと、バズることの本質」について問答を行なった。  途中、風俗やおっさん話に脱線しつつも、導き出された“真理”とは……? ――お二人は初対面とのことですが、田中さんはpatoさんのことはご存知でしたか? 田中泰延(以下、田中):以前から記事は拝見してました。「青春18きっぷで日本縦断」とか、あとドラクエのやつ(「思いっきり感情移入しながら『ドラクエV』をプレイしたら絶対にビアンカを選ぶ」)などを見て、「すげえな」と思ってました。

電通を退職後、さまざまな媒体で活動している田中泰延氏。ツイッターの投稿もたびたび話題となっている

pato:僕も田中さんの『読みたいことを、書けばいい。』を拝読しました。文章の技術論はほとんどないにも関わらず「文章を書いて仕事をする」ことにおいて非常に大切な本質論が書いてあるので、すごく参考になりました。何かを書きたいと思う人には、絶対読んでほしいですね。他はいらない。

日刊SPA!連載「おっさんは二度死ぬ」でおなじみのpato氏

田中:おお、そうですか。 pato:最初のページの一行目で「あなたはゴリラですか?」と問いかけてくるじゃないですか。この時点でもう完全にゲームセット。もう、買ったら最後まで読むしかなくなる。 田中:最後に僕が「先祖の霊が祟ってるから」と多宝塔を読者に売りつける内容となっていますけども(笑)。 pato:いやいや(笑)。あと映画のレビューなど、別に短くても良いものに対して徹底的に調べ上げて何千文字と書いてしまう、などのエピソードには共感しきりでした。「文章を書くのは嫌だけど頼まれているから書いている」というのも他人事とは思えなくて。やっぱり田中さんも、文章書くのが嫌いですか。 田中:嫌ですよ、もう。書くことが大嫌い。でもpatoさんは、ものすごいペースで連載されていますね。毎週? pato:はい。今日も締め切りで、さっきも書いていたんです、『日刊SPA!』の連載分を。たぶん締め切り破っても怒られないんですが、ウェブ畑の人間がいい加減だと思われるのが嫌なので、毎回締め切りをきっちり守っています(笑)。

「実は、文章を書くのが嫌で仕方ない」

田中:ですよね。たまに、Web系のライターの方で、仕事以外に「今の気持ちを書きました」と言ってnoteを更新したりしていますよね。あとほら、若いライター志望の人が「書くのが大好きです」って言うけれど、あれはちょっとよくわからない。 pato:そうですよね。文章を書くということは、息継ぎなしで潜っているようなものでして。 田中:本当にそう。書いているうちにそれが楽になるかって言ったら、全然ならないじゃないですか。何ででしょうね、あれ。 pato:僕はテキストサイトの出身で、もう20年ぐらい前に始めたのですが、当時はそれしか表現の手段がありませんでした。それから一旦書かなくなり、それこそ田中さんの本にあるように「頼まれたから仕方なく」書いたら、それがボーンとバズって、いっぱい頼まれるようになって、今に至るという状態です。 田中:次から次へと反応が来ましたよね。 pato:「ライターになったら、女のコにモテるかな」と思ったら、そうでもなかったですし。ラクに書いてお金を稼いでいるイメージが結構あるのかな、と思って。 田中:全然モテない。しかも、割に合わないですよ。

「大学院の教授が狂っていたおかげで、文章力が多少鍛えられたんです」

ライターの仕事の9割は「調べる」作業

pato:そうなんですよ。それで僕、あまりお金の話をしないので、公開されてバズッた後に「いくらでしたっけ?」とか言って。 田中:僕もお金の話、しないんですよね。書くのも苦手で、お金の話も苦手。そして、それが「その金額で良いですよ」と話がついた後に、請求書を出すのが苦手。一年前の請求書とか結構溜まってます。 pato:「印刷したものをハンコ押して、PDFにして送って来い」とか言ってくるところもあるりますよね。いっぱいプリントアウトしてハンコ押してスキャナーで取り込んで……「もう要らんな、お金」とか思いながら(笑)。 田中:要らんですよね。 pato:例えば僕は、「原稿料15万円」と言われた時に、自分の記事に15万円の価値があるとは思わないんです。300円ぐらいかな。15万円の価値があるなら、相当の人が見ないといけないでしょう。 田中:それはそうですよね。 pato:昔は、広告で「10アクセスで1円」とかっていう時代があったので、15万円を貰おうと思ったら150万アクセスが必要。相当ですよね、Webで150万PVなんて……。そうすると、「そんなに価値ないよなあ」とか思ってしまうんです。 田中:わかる。僕も1万字くらいの原稿が、一番安かったね。 pato:1万字でいくらですか? 田中:1文字に対して1円の世界ですよね。たとえば映画評なんか、長いやつはやっぱり映画2回見に行って、パンフレット買って、『キネマ旬報』買って、『映画批評』買って、サントラ買って、もう大体それで1万円。

大学院時代、教授にA4一枚の文章を30回リジェクトされたことが糧となった⁉

pato:それでいて田中さんが著書で「物書きは『調べる』が9割9分5厘6毛」とおっしゃるように、書く際は全て原典を当たっているんですよね。 田中:そう、国会図書館まで行く。それに、「あの映画に似ている」と書こうとすると、それをまた調べなければならない。ネット記事を見たり、ラジオでライムスター宇多丸さんの映画評を聞いたり、他の方の映画評を見たり。 その際、「僕はこう感じた」というのが被るとすごい恥ずかしいので、『Yahoo!』とか『映画.com』の2千とか3千とかレスがついている掲示板を見る。絶対に全部読みます。 その中に1人でも同じ意見があって、僕が1万字も書いたら……。そこらへんのおじさんが書いたのと同じだったら大恥をかくわけですよ。 でも、そこまでしたら赤字ですよね。大体1本の映画見て、書くまで早くて3週間。下手したら1ヶ月。大変ですよ、これはもう家庭崩壊の危機です。 pato:なるほど。田中さんのそういう姿勢は、研究者に似ていると思いました。僕は理系の大学院を出ているんですが、所属していた研究室の教授がちょっと頭がおかしくて、書くものに対してものすごく厳しかった。研究発表の際に研究目的と実験方法と結果などを全部載せたレジュメをA41枚で作るんですが、1枚に入りきらない時もあるんですよ。 フォントを小さくすることも許されないのでそのまま出すと「全部書かれていない」と、赤字を入れて戻され、そのやり取りを30回以上はやる。そうされるうちに、1つの事実を100通りぐらいの言い方で考えるようになって……。文章に関しては、とんでもない躾を受けたんです。 田中:ああ、なるほど。で、書籍版『おっさんは二度死ぬ』だけども、小説としてすごくちゃんとしている作品だと思いました。本当にみごとな構成で、単に連載をまとめた本ではない。ところどころ、声を出して笑ったし、最後はちょっと泣きましたからね。グッときたから。様々なギャグが出て来て。やっぱり話の面白さって、真偽はともかく「それがテキストとして本当に面白いかどうか」だけじゃないですか? pato:よく言われるんですよ、「あれ本当のことですか?」って。どう見ても本当のことじゃないじゃないですか、部分部分が。そう言われるのが嫌で、あえて書いている部分もあるんですけど。

「『おっさんは二度死ぬ』は構成がすごい。最後に『あっ』と驚かされたし、他の人にも読んでほしいと思える作品」と絶賛する田中氏

単なるネット連載のまとめ本にはしたくなかった

田中:そうでしょう? もう、ああいう、バカバカしいテキストが並んでいるのは、文芸だから。その部分を本当に楽しんで僕は読みましたし、他の人にも読んでほしいと思う。 明朝体とゴシック体でパートが分かれているので、何だろうと思っていたら、最後は本当に「あっ」と驚いた。文字だからこそできる、叙述トリック。読後感としては、映画『ユージュアル・サスペクツ』を観た後のようだった。小説形式で書くのは結構長いことやっていらっしゃるんですか? pato:いえ、ちゃんと書いたのは初めてです。あまり小説も読まないんですよ。やっぱり文章嫌いなので。最初は短編をそれぞれ書いていて、その辺にある超ベタなオチでまとめようと思っていました。しかし担当さんから、とある意見を頂いてから何かがパーンと閃いて、一気に書き進めたんですよね。「一体どうやったらそういう状況になるのか」を探るようにしながら。 田中:なるほど、そうか。いやいや、これは面白かったです、本当に。そこの小説としての面白さをもっと知ってほしいですよね。普通にこれ、ベタで考えたら、連載の中で特に面白かったエピソードをピックアップして、それぞれを読み切りの短編小説にしそうなものじゃないですか。そうしよう、と思った時期もあったんじゃないですか? pato:そっちの方がラクそうですしね、また書かなくて良いので。やっぱり書くのは嫌なので。ネットで書いている人が本を出すとき、通常はネットで掲載されたものをまとめただけのものが結構多いと思うんです。 例えば、フォロワー数が10万、20万の人が本を出せば、その1割にあたる2万、3万は売れるだろうという目論見で。そこで、僕自身はそこまでフォロワー数が多くないというのもあるし、「連載の読者がびっくりするようなものを作りたいな」という狙いがありました。 田中:確かに、連載の中のエピソードは、1個ぐらいしか入っていないでしょう? pato:1個か2個ぐらいですね。 田中:ですよね。僕が一番「入っていたら嬉しいな」と思った「デスイレブン」(日刊SPA!連載・第6話)があって良かったです。 pato:田中さんが著書で書かれた、「書く前に原典に当たる」作業もしました(笑)。劇中にはデリヘルが出て来るので、デリヘルのことがわからないといけないと思って行きました。5回。

ハローワークで、「デリヘルのカメラマン」を募集していた

田中:確かに、控室や店の描写がやけにリアルだと思った。店の人は控室ではなくて、車のほうに逃げてパソコンで指示を出すとか。 pato:はい。すごく怪しまれましたね。文中にも出て来るんですけど、「プレイをしない人」って警戒されるじゃないですか。僕もまさに「話だけ聞かせてくれ」と。で、その中に1人、すごく変な女のコがいて、『日刊SPA!』には書きました。 田中:僕、会社辞めて一年間失業給付もらっていたんですけど、ハローワークに行くといろんな仕事があるじゃないですか。その中に「デリヘルのカメラマン」っていうのがあって。真剣に、それやろうかなと思って。 pato:ホームページ用に綺麗な写真を撮る仕事ですか。 田中:そう。デリヘルのホームページと、あと『シティヘブン』とかに載せるやつを撮るための。デリヘル40店ぐらいあって、どんどん入ってどんどん辞めていくから、その度に写真を撮る仕事。「良いかな」と思ったけど家族に説明しにくいし、内容を見るとものすごく忙しそうなことが書いてあって、給与は月16万円だった。これはちょっと生活出来ないかもしれないと思ってやめといた。 pato:デリヘルのコも言っていたんですけど、風俗のオーナーにはロクでもない人もいて、スタッフの男に対してはパワハラをして薄給でこき使うことも多いらしくて。「もう可哀想になってくる」って。
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勃起してはいけない幻の店、「全裸クラブ」の思い出
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pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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