「言葉は循環させるもの。良い言葉を使えば、徳になって返ってくる」
アマゾンで低評価レビューがトップに上がってくる理由
田中:Amazonで「途中までしか読んでないが、すごく腹立たしい本だ」という貶しレビューがなぜ「最も参考になる」に選ばれるのか、考えてみたんですよ。皆、消費生活をしていて余計なお金を使いたくないから、1,500円のモノに対して悪い意見が載っていたら
「良かった、買わなくて良いんだ」と安心できる。そういうメカニズムなんですよ。まあ、それでも良いと思うんですけどね。ただ、この間大笑いしたのが、「実用書だと思って読んだら、後半ポエムになる残念な本だった。カネ返せ」って言われて。
pato:でも、やっぱり文章の技術論を書いた実用書じゃダメではないですか。
田中:ダメですよ。僕も会社辞めて1年ぐらいした時に大手出版社から『電通なんて辞めちまえ! 僕のTwitter活用術』、『バズる・儲かる Webライティング』などの企画書が来たんですけどね。
pato:最近の本のタイトル、めちゃくちゃギラギラしていますよね。特にビジネス書に入ると『会社なんて辞めちまえ』とか『カネは全部使え』とか、めちゃくちゃ攻撃的。
田中:おかしいでしょ? もう何かフォントとかも攻撃的だよね。
pato:そこにポンと『読みたいことを、書けばいい。』というのはソフトなので目を引きます。
田中:僕と糸井重里さんとの対談を読まれたダイヤモンド社の今野さんから、これを仮タイトルにした依頼が来たんですよ。「仮のまま進めていくのか」と思っていたら、見ているうちにだんだんと「これ良いな」と思うようになって。しかも、仮タイトルだけで社内の企画検討会議を突破していくんです。「ああ、これ大丈夫だ」と思って、もう今野さんに任せました。
pato:なるほど。柔らかい言葉で、良いなと思います。本当に、本屋に行くと気が滅入りますから。
田中:ねえ。あと、バカとかアホとか付く本が多過ぎですよ、今。『バカは相手するな』とか『アホは死ね』みたいな、むっちゃ多い。
pato:『ぶち殺すぞ』みたいな。もう、凶器ですよね、今の本。
田中:だから、ノウハウ本を求めている人からしたら、「何を言っているかわからない」と思うんでしょうね。
――田中さんの著書で、「貨幣と言語は同じもの」として、「書くこと自体が経済活動」と書いていますが、その観点でいうとクソリプやマウンティングなどはどう感じますか?
田中:もったいないと思いますね。言葉、皆同じものを使っているはずなのに、どんどん状況や立場が良くなっていく人もいれば、呪いの言葉を選んで使って、どんどん悪くなっていく人もいて。
pato:それしかインターネットの使い方が分かっていないのかも知れないですね。
田中:ただ、ひとつ思っていることがあって、例えばツイッターで飛んでくる罵詈雑言を1000回以上ブロックする日がある。そういう日は、
徳が貯まっていると思っているんですよ。罵詈雑言に反応せず受け止めた、ということは、この分、僕のこのカルマは良くなっているはずなんです。「怒りや悲しみを受け止める人」のことを「仏」と呼ぶわけでしょう? で、僕のところで止まっているから、僕は仏になっているわけです。
pato:そうですね。炎上もたまに良いことはあるんですよね。たまに「これは炎上で叩かれるべきだ」っていうケースもありますし。僕はクソリプが来ても、ブロックすらせず放置します。そもそも基本的にSNSでやり取りをすることがあまりないので、「それだけを無視」というのも別におかしくないし。
田中:僕はあまり……1日に200回ぐらいしかしないです。
pato:めちゃくちゃしてる(笑)。
田中:ブロックした直後に見に行くと、10人に1人ぐらいは「この田中泰延っていうクソ野郎、ブロックしやがった」って書いてあって。
pato:ブロック画面出したりして。
田中:そう。これが嬉しくて仕方ない。つまりこっちが向こうのことを考えていない状態で、向こうは少なくとも僕のことを強烈に、想い焦がれている時間があるわけじゃないですか。その時間を食べて生きているんだなと。たぶん、芸能人などが叩かれながらも人気者になっていくのはそういう言葉を食べて生きているからなんです、実は。
pato:なるほど。でも、こき下ろすよりも、調子に乗せたほうがもっと面白いコンテンツを享受できて、皆ハッピーなのにな……と思うんですけどね。
編集者から戻ってきた原稿に、100個くらいの褒め言葉が……
田中:うん、そう。例えば10万円持っていても絶対投資しない人と同じなんですよ。10万円は投資したら12万円になる可能性もあるし、それを増やしていったらやがて1000万になって利子だけでも食えるようになるんですよ。ところが、ほとんどの人が10万円入ったらコンビニとかで使って、「わあ、10万円なくなった」って慌てる。それと同じ言葉の使い方しているんですね、貯めてない。貯めて、ある程度の量になったら運用したら、利息で食える。言葉というのも全く同じですね。
pato:僕は「ライターになりたい」って言う人に「書けよ」しかアドバイスしないんですが、そのうち10人に1人ぐらい本当に書いて来る人がいるんですよ。大体、褒めて戻してます。もしかしたらすごい大物になって、めっちゃ面白いものを書いてくれるかもしれない、と思っているから。
田中:僕も、最終的にツイッターの大学生らの文章は見てあげたんですが、良いことしか言わない。だって、僕の本を読んで、一応そのメソッドに従おうと頑張って調べて書いてるわけじゃないですか。そうしたら、もう褒めるしかないですよね。
pato:褒めれば良い気になっていっぱい書いて、さらに面白いものが世に出て来るかもしれない。そうしたら僕に仕事をくれるかもしれないしね(笑)。やっぱり、良い言葉を掛けないと。世の中良いモノや言葉が循環していってほしいなと思います。
田中:編集者もそうでしょう? 書いてくれるライターや作家に、灰皿投げつけて良いものが出て来るわけがない。
pato:田中さんも、カツセマサヒコさん(ウェブライター、編集者)と仕事されていたじゃないですか。
田中:はいはい。
pato:この間、カツセさんと仕事したんですが、すごいですね。送った原稿にコメントが100個ぐらい付いているんですけど、
8割ぐらいが褒めているんですよ。で、直しは2割ぐらいなんです。
田中:それはカツセさんが編集者で?
「褒めて良い気にさせてくれれば、良いものを書けるかもしれない(笑)」
pato:はい。いろんな人が書くという企画でまた5~6万字ぐらい書いたんですが、カツセさんが最初からそれを期待している風で。別の方が「文字数制限ありますか?」って言ったらカツセさんが「patoさんを呼んでいる以上、文字数制限はありません」って言われて。「え、僕期待されているのかな?」と思って頑張って6万字ぐらい書いたんですけど。コメントの8割がもう「ここ好きです」とか「ここめっちゃ綺麗な表現です」、それしか書いていないんですよ。褒めて良い気にさせているんだろうな、と思って。
田中:へえ。編集としてそこは優秀なんやな。
pato:やっぱり「良い気にさせる」っていうのが一番大切ですよね。僕らなんかを良い気にさせたら、何かとんでもないものを作ってくるので……。
田中:まあ、面白いライターの人は、いっぱい出て来た方が良いですよね。それがいっぱいいて、「あの人も面白いけど、この人も面白い」って言われるのが一番得なので。
pato:そうですね。そうしたら相乗効果でいろいろありますね。今、いろんなメディアが潰れていっているので。
田中:オウンドメディアとかね。
「テキストサイト文化では、管理人がミステリアスであることも面白さの要素だった。今と真逆ですね」
オウンドメディアが乱立しては潰れていくのは何故か
pato:有名な人に頼むと一瞬バズるかもしれないけど、その記事しか見られないし、
サイトまで見に行かないんですよね。「シェアされやすい」というのが弊害になっているのを感じます。この記事は知っているけど、それがどこのサイトに書かれたものか分かっていない人は多いんですよね。僕が「自分の記事にそんなに価値があるか?」と思っている部分がそこなんです。
田中:大体ね、各企業がオウンドメディア立ち上げた時なんて、靴下の会社のオウンドメディア、水道会社のオウンドメディア、帽子の会社のオウンドメディア……。「そんなに、要る?」って。世の中に。でも皆勘違いして、各企業が1個サイトを作って、そこに人気ライター呼んでくれば盛り上がる、と思い込んだんですよね。
pato:そうなんですけど、その記事だけが盛り上がるんですよ、人気ライターが書いても。そのサイトは誰も認識しない。どうもそんな弊害が出ていて、今バタバタと段々潰れていっているように見えます。
――何を書くかではなく「誰が書いたか」というのが重要視される傾向がありますね。
田中:まあ、「読モライター」的な人は仕方ないですね。その人の顔写真とかが見目麗しいから売れるところがある。僕も、昨日Twitterのアイコンを子鹿のバンビに変えただけですごい盛り上がったんですから。ずっとこれで行けば良かった(笑)。すぐ戻しましたけど。
面白いこと書く人は怖いイメージがある
pato:僕が顔出ししないのは、「バレたら本業がやりにくい」というのもあるんですけど、僕がテキストサイトで書いていた時代って、管理人は皆ミステリアスだったんですよ、「どんな奴が書いているんだろう」と想像させるのも面白さの演出だった。大体僕の皆のイメージは「小さい、細い人」をイメージするんです、文章から。
田中:ああ、なるほど。
pato:で、会うとデカいからびっくりされるんです。
田中:でも記事と本を拝見して、「面白いことを書く人って会ったらたぶん怖いだろうな」と思ってた(笑)。
pato:僕も、田中さんに対して怖そうな感じを覚えていたし、中川淳一郎さんにもそう思っていました。
田中:中川さんはただの酔っ払い。シラフの中川さん、僕は見たことない。イベントでも飲んでいるし。ツイッターでは「ウンコ食べてろ」とか言うし。でも本当は常識人だからね。
pato:ネットの人はちょっと怖い気はしますよね。
田中:一方で、この『おっさんは二度死ぬ』シリーズをずっと読んでいると、すごく冷静で、物静かな観察者が書いていることがわかる。写真が出せないのがもったいないよね。