更新日:2023年04月18日 11:05
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”バズる文章”の極意とは? 12万部「読みたいことを、書けばいい。」著者・田中泰延×pato対談

登山、鉄道、カメラは炎上しやすい⁉️

pato:彼は全然調べずに書かれた、プロから見たら稚拙なものは炎上するとわかっているから。例えば先ほどの富士山の記事ですが、Webライターの間では、「登山はヤバい」っていうのがあるんです。すごく叩かれやすいんですよ。「何でそんな装備で行ったのか?」、「なぜそんなに事前に調べて行かなかったか?」、「なぜそれをしようと?」「訓練はしたのか?」などありとあらゆることを言われる。 以前、高野君という東大生ライターが『SPOT』というサイトで、「日本の中心を探す」という記事を書いたんです。日本列島が物体だった場合の中心を算出したら、槍ヶ岳かどこかの中腹か頂上辺りで、中心が見えないので装備をきちんとして山小屋で3日ぐらい泊まった。それを見た登山クラスタから「なぜ素人がこんなところに登ったか?」と猛烈に叩かれたことがありました。 田中:山小屋で、「そこにずっといないといけないのもおかしい」とか? pato:僕の記事も雨に打たれたりとか、日の出が見えると思ったら山に隠れて見えなかったりとか、行き当たりばったりなんですが、文句付ける人が出て来るんですよ。「山というのは命が懸かっているから、こんな適当に面白く書くのは許せない」という。でも、計画通りに全部いって、「楽しかったです」っていう記事を皆読みたいかと言ったら絶対読みたくないんですよね。

おじさんが好きなものを書く時は要注意!?

田中:なるほどね。山、面倒臭い。 pato:あと鉄道と。大体おじさんが好きなもの、ヤバいですね。知人にツーリングが趣味の女性がいて、1人でテント背負って行くんですけど、「面倒臭いおじさんとかいなかった?」って訊いたら、「もう死ぬほどいます。語り始めたら終わらないぐらいいます」って。ずっと「アドバイス」と言いつつ付いて来るおじさんとか。おじさんは自分の趣味の領域に若い女の子が入ってきたら、理性を失うから怖いです。 田中:そうだよね。カメラとかもヤバい。レンズとかね。昨日もちょっと僕、「50mmより35mmのレンズが欲しいわ」って書いたら、何か10人ぐらいいろいろどうでも良いこと言ってきたの。まあ最初の2文字ぐらいで悪意があるのがわかるので、すぐブロックするけど。すぐわかる。マウンティングは定型文ですから。 pato:おじさんって現実世界では若い女の子にしかマウンティングしないけど、ネットだと、どの人にもマウンティングしちゃうんですよね。

「この世界の9割は、自分が知らないことばかり。文章もそれを前提に書かないといけない」

書き手は、おごり高ぶったら終わり。傲慢さは必ず文章に表れる

――patoさんが、もし文章術の本を書くとしたら、どんな構成にすると思われますか? pato:僕、書籍『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』の映画版がめちゃくちゃ好きなんですよ。皆アイドル映画だと思ってバカにするんですけど、マネジメントの王道的なノウハウが詰まっている。その中に、ドラッカーの言葉で『人の心を動かすのは、才能じゃなくて真摯さとひたむきさだけだ』っていうのがあって。それも文章も一緒かと思います。真摯でひたむきじゃないと人の心は動かないんじゃないかなと。 田中:なるほど。 pato:そこで例えば、僕『醤油を100個レビューする』という記事を書いているんです。鹿児島に、すごいスーパーがあるんですよ。棚2つ全部醤油。『みんなのごはん。』というグルメサイトから依頼が来た際、「100種類あるところ、僕知ってるから」って鹿児島まで行って、醤油を3万円ほどかけてそこにある全種類買ってきたんです。 醤油を一つ一つ眺めながら、「この醤油もめっちゃ頑張って作った人がいるんだな」と思っうと、まずバカに出来ないという心情になった。だから、一つでも「まずい」と書くのは避けたい。そこで醤油自体ではなく「タコの刺身に合うかどうか」という視点にしたんです。「美味しい」と書きつつ「合わない」とも書けるから。 田中:ああ、なるほど。 pato:さらに100個全部手を抜かずに1銘柄1,000文字ぐらいレビュー書いているんですよ。 田中:ということは10万文字? pato:はい。でも100個レビューを書いても誰も読まないから、最初のほうに、例え話で友人の話を入れました。「まろやかな感じだけど、これは、まろやかと言えば友人の○○君が~」って。レビューが進むにつれてその友人の○○君の冒険が始まるという仕組みです。 田中:醤油どこ行ったの?(笑)

忘れられない父の言葉「泳いだだけで、お前に海の何がわかる?」

pato:その友人の話が盛り上がって来ても、醤油はおろそかには出来ないので、ちゃんとレビューしているんですよ、醤油だけは。Webって、少しでも書き手に傲慢な感じが覗くと、皆一気にネガティブな感情になる。「こいつは威張っている」とか。 なので、真摯さとひたむきさがしないとダメだなと感じています。僕も文章テクニックについては、1文字も書かないと思います。僕、小学校の句読点の授業の日に休んでいて、未だに句読点の使い方がよくわからない。文章技術は書けないです。だから「やっぱり心だぞ」みたいな感じにはなると思います。 田中:わかるわ。だって、世の中、知らないことがもう9割9分9厘じゃないですか? だから、僕らは知らないことに「へえ!」って驚いて書くので、威張る隙間がどこにもない。 「じゃあ得意なこと書いて下さい」って言われることもあるけど、じゃあ僕、カメラのレンズが好きだから、「僕レンズ好きだけど、こんな、こんな……」と書いたら、その100倍ぐらいマウンティングが返って来る。 pato:ありますね。 田中:だから、威張ったら負けなんですよ。知らないことしかないからね。子どもの頃に親父に言われたのがすごい印象的で、小学校の時、「お前、海を知っとるか」って言われて、「知ってるよ」って言ったら、「お前に海の何がわかる? お前、今『知ってる』と言うたろ?」ってめっちゃ怒ったんですよ、親父が。 「海ってお前、チラッと見たしちょっと泳いたぐらいやろ」と。どれだけの広さがあって、どういう風に出来ていて、どれだけの生き物がいて、どんな歴史があるか。「お前、ちょっとでも言える?」って親父に言われて。「いや、チラッと見て、ちょっと泳いだだけです」って言って、凹まされたことがあって……。それは本当に忘れられないですね。「ええこと言いよんなあ」と思って。

炎上は、「書いていないことを読みたい人たち」が起こしている

――田中さんは最近、それとは逆の立場から炎上を経験されましたね。 田中:ああ、あれはおかしかったですね。『読みたいことを、書けばいい。』を買ってくれた大学生4〜5人から個人的に「映画の感想などを書いたので添削して下さい」とメールをもらって「じゃあ送っておいで」って言ったら、件名も差出人名もなくただ作文だけ送って来て。 どれがその4~5人なのかもわからないから、「お前らこんなメールの送り方は不合格や」ってツイッターに書いたら、僕のことを大学教授と勘違いした人が「教育の腐敗」とか、「この大学教員を罷免すべき」とか、「こいつが国立大学の教授なら懲戒免職すべき」と、寄ってたかって叩いてきた。あと東大の教授20人くらいが「どこの大学だ、これは」とか。僕、一言も「大学の先生だ」って書いていないのに(笑)。 pato:確かに田中さんは大学の先生感、ありますよ。 田中:全く。どこにも書いていないですよ、「大学生に添削をしたら、こんなメールが来たので不合格にしました」というだけ。どこに僕の職業や所属が書いてあるのか。「大学生」って最初に書いているのと、最後の「不合格」っていう漢字6文字だけで判断されてしまった。この人たち、「書いてない文字を読める天才だな」とpato:それだけで「単位を出さなかった」みたいに思われたわけですね。 田中:そう、内容以前に「田中様 誰々です、読んで下さい」とも書いていないんです。原稿用紙3枚分ぐらいの映画の感想が、全員ですよ。 pato:たぶん、それを大学でもやっていないんでしょうね。 田中:きっとLINEなどSNSの影響でしょう。「誰々様」「誰々より」っていうのは一切書かない社会になったから。でも、そこはそれだけのことなんです。なのに東大の某教授は、「この大学と、腐敗した大学教員は一生監視してやろう」だなんて言う。 pato:炎上について持論を話しますと、僕は炎上1.0と炎上2.0というのがあると思っていまして、今は炎上2.0が多いと思っています。炎上1.0はもう、例えばその本人を私生活にも影響が出るまで暴いて、徹底的に叩いて息の根を止める。一方、最近は炎上といってもただ意見を戦わせているだけの喧嘩という意味で、良い炎上だなと。 田中:僕、あれは美味しいんです。何の圧も無く、周りの人が狂い始める。そして極め付けは記事にまでして、僕が「自分はどこの大学教員でもないですよ」って返信したら、次の日に記事で線を引いて訂正してある。でも、結構あれは美味しかったですね。

怒っている人は、途中までしか読まない人が多い!?

pato:大学教授などでよくTwitterのプロフィール欄に「ツイートは個人の見解であり所属とは無関係です」と書いていますよね。いや、名乗っているから関係あるでしょうと思うんですよね。 田中:僕もそういう人たちにね、「僕は大学の先生でも何でもないですよ」ってしたら、何か、絶対謝らないんですよ。その次のツイートが「炎上ビジネスに加担してしまいました」「乗せられてしまいました」とか。 pato:「勝手に釣られている」というのはありますよね。 田中:書いていないことを読みたがるんですよ、自分の言いたいことを何か見るんでしょうね、幻の脳内補正で。それこそ「読みたいように、読めばいい。」です。 pato:昔からある、「全体の一部分だけ切り取って炎上させる」とかも酷い有様ですけれども。今はもう誰も一次資料に当たらないので、切り取られたところだけ見て延焼しますよね。 田中:この本も、(『読みたいことを、書けばいい。』)を最後まで読んだ人は、大体褒めてくれるんだけど、途中で辞めた人は大体怒ってるんですよ。 Pato:そうなんですね。
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言葉も貨幣と同じく、循環させるもの
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pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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