更新日:2023年04月18日 11:05
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”バズる文章”の極意とは? 12万部「読みたいことを、書けばいい。」著者・田中泰延×pato対談

「何で他人の風俗失敗談ってあんなに面白いんですかね」

勃起していはいけない幻の店、「全裸クラブ」の思い出

田中:風俗じゃないんだけど、1回だけ新宿にあった「全裸クラブ」という店に連れられて行ったことはありますね。普通のキャバクラみたいに、入ったら普通に「いらっしゃいませ」って言ってボトル出してくれて、フリーの客にはフリーの子が付いて、タバコに火を付けて、世間話するだけなんだけど。ただ1つの違いは「女の子が全裸」ということ。 pato:風俗サービスがあるわけでもなくて、ただ全裸ですか? 田中:そう。そして客のルールはただ1つ、「女の子が全裸であることに言及しないこと」。 pato:精神を……スピリチュアルなほうを重視しているんでしょうか。 田中:お客さんには常連とかもいるんだけど、「あ、元気してた?」とか、「いやー、ゴルフがさー」とか言って、とにかく絶対に全裸であることには触れない。だから、すごく精神が鍛えられるわけです。平静を保ちながら世間話に終始しないといけないから。 pato:『全裸葬式』とかいうエロビデオがあるんですけど、ああいう感じでしょうか。『全裸裁判』とかも、あるんですが。 田中:でもその半年後くらいに「あの店どうなったの?」と訊いたら、もうなかったんです。摘発されたのかもしれない。「勃起してはいけない風俗店」なんです。客がルールを守っているのがすごいですよね。 pato:ああいうところは、結構おじさんは大人しいんですよね。紳士だったりして。

何でSPA!は坂口杏里をイジりまくるのかね

田中:そうなんですよ。で、心の中で、「何か良いことがあったら良いな」とは思ってるけど、言い出せないんですよ、おっさんは。それにその店は紹介制だったし、すぐに言い含められるんですよ。「僕の恥になるから」って。「ちょっと変わっててびっくりするかもしれんけど、何も言うなよ」って。 pato:すごい紳士な社交場みたいな。 田中:そうなんですよ。そういうスピリチュアルなほうについては僕も大好きですね。 pato:『日刊SPA!』のランキングの傾向を見ていると、やっぱりそういった風俗の話、失敗談とかは、すごく人気があるみたいです。坂口杏里とか。 田中:坂口杏里!(笑)。彼女、「タレントの誰に似ている?」という問いに「坂口杏里」て答えてるよね。「似てる」じゃなくて、ただの本人っていう(笑)。 pato:それについて、ずっと怒ってるおっさんがいるんです。風俗店のサイトの坂口杏里を見ていたら、「似てる芸能人」が「坂口杏里」。それが許せないと言ってて。「『似てる』じゃないだろう、本人だろう」。何で『SPA!』はあんなに坂口杏里はネタにするんですかね? 田中:何か大阪にもいたみたいですね。 pato:僕は田中さんの、風俗体験談とかも読んでみたいです。そういう連載も絶対に面白いんじゃないですか? 田中:ああ、風俗カメラマン、やってみようかな? 月16万円だけど。 pato:いろんな人間模様が……。 田中:めっちゃ見れるでしょうね。

「24時間、書いてていい」と言われたら書けない

pato:僕、普通に仕事しながら執筆活動しているんです。だからもう休みもほとんど無くて、仕事終わってからもずっと書いているんですけれども、田中さんは辞められた時どういう心境だったんでしょうか? 本にも書かれていたんですが、「怖くなかったのかな」とずっと思っていまして。 田中:うーん、何も考えていなかったな。会社を辞める2年ぐらい前から依頼が来て、急に書き始めたんだけど。仕事が終わった後や、土日に書くというのが続いて。正直しんどくて、辞めたら楽になるかなと思って辞めた。でも、今となっては辞めたほうがしんどかった。 pato:ああ……。 田中:何も勤めがなく、自由に時間があって「24時間書いて良いんだよ」って言われたら、逆に書きたくないんですよ。だからね、patoさんは絶対辞めないほうが良い。これは強く言っておきたい。会社を辞めると、ロクなことがないですよ。 pato:そうですね。例えば1記事書いて5万円とか貰うじゃないですか。それが結構大変なんですよね。1記事書いて納めて、ネットの反応とかも見て……。それを考えると、「会社って何もしていないのにこんなにカネくれるんだ」と思ったりして。 田中:そうなんです、大変。直しも入るし。公開されたらされたで、炎上することもあるし。で、SPA!本誌で連載されている燃え殻さんもね、彼はやっぱり「辞めない」って言うんですよね。僕らは集まるたびに彼の首絞めて「辞めろ~」「辞めろ~」って言うの(笑)。でも本人は、わかっているんでしょうね。辞めて、「24時間書いて良いよ」ってなったら、たぶんグズグズになる。 pato:それが怖くて。

ストロングゼロで新幹線を乗り過ごす

田中:僕もグズグズで、つまり、朝何時に起きても良いじゃないですか。これはもうヤバいです。 pato:僕も43歳のおっさんなんで、放っといても5時に目が覚めます。 田中:起きるでしょう? 1回トイレ行くでしょう? もう寝られないですよね。 pato:もう何しても。1時とかまで酒飲んでいても、5時に起きる。「休みだから昼ぐらいまで寝ていた」なんていうのはもうここ何年、全然出来ない。絶対出来ないです。だから目覚ましとかセットしたことない、起きちゃうので。 田中:だから僕、よく朝6時頃ガンガンツイートしているでしょう? あれは、起きて、もう寝られないから、辛いから。大体僕は人に「就寝時間と起床時間、全部分かりますね」って言われる。ツイートして、寝落ちして、起きてツイートします。 pato:おっさんの辛さですね。 田中:辛いんですよ。 pato:僕はもう、最近は仕事しているか、文章を書いているか、ストロングゼロを飲んでいるかです。僕があまりにも好きなものだから、ヨッピーとかあの辺の友達が皆、お金出し合って1,000本僕にプレゼントしてくれた。 田中:ええっ。 pato:去年の僕の誕生日に、ストロングゼロをドーンといきなり家に送られてきてですね、1,000本。40数ケースありましたね。それを僕、1年ぐらいで飲んじゃったんですよ。 田中:すごい、それ。1日3本……。 pato:健康診断とかでも全く異常はなく、「ちょっと太り気味」って出るだけ。全然大丈夫ですよ。血圧も「低め」ぐらいですし。つい数日前も、東京から新横浜まで新幹線乗ったんですけど、ストロングゼロ飲んだんですよ。 田中:東京から新横浜まで? すぐじゃないですか。ほんのちょっとじゃないですか。 pato:すごく疲れていて、もうホームから「新幹線乗る」と思ってストロングゼロ飲みながら新幹線を待っていたんですよ。飲み切ってバーッと乗って、自由席が空いていたので座ったんですが、目が覚めたら広島にいたんです。 田中:どんだけだ! 4時間くらいずっと? pato:最近の自由席は切符を見に来ないので……もう、何が起きたのか一瞬分かりませんでした。僕、大学が広島だったから、初めての地ではないんですよ。目覚めると、「やっぱり広島だな、見た景色だ」と思って。それをツイートしたら、2万リツイートほどされました。皆、人の不幸が好きなので。

「文章として表に出ているのは、氷山の一角。つねにそうでなければならないと思っています」

「どうすればライターになれるか?」への回答は「根性を出す」以外にない

pato:僕も「どうやったらライターになれますか?」と若い人に相談されるのですが、その時に言うのは「根性を出そう」しかないです。 田中:僕も、いつも「書きたいの? そんなにライターになりたいの? じゃあシャーペン買っておいでよ」「夜中、太腿に血が出るほど刺せば、書けるよ」「寝ないで書けます」って言ってる。 pato:ライター志望者は「文章だけ」を見がちなんですが、そうではないんですよね。書く前段階にものすごい行動量が伴ってなきゃいけない田中:取材したり、調べたりしなきゃ、書くネタ何もないですよね。 pato:ですね。僕なんか、大体本当に基本的に旅行に行かされるやつが一番多いので、日本縦断とか、富士山ゼロから上がるとか…。 田中:あの、駅いっぱい行くとか。 pato:行くとかですね。あれも、基本的にそこまでしなくて良いんですけど、例えば「取材費込みで30万です」って言われたら、僕は「29万ぐらいまでは使えるぞ」…。 田中:わかる。使えること考えますよね。 pato:「自分のギャラ」という考え方があまりなくてですね、「29万ぐらいまでは使って派手に行けるな」と思っちゃうんですよね。そういうのが、結構「なりたい」って田中さんとか僕とかにも言ってくる人って、やっぱり文章、好きなことばかり書いていればそれがお金になって……っていうのが、やっぱりちょっと超有名な小説家でもない限り……小説家でも取材していますよね。

テキトーに書いてバズれるのは超有名人だけ

田中:していますよ。好きなことを書いていいのは、別の分野で超有名な人です。 pato:そうですね。 田中:つまり、メジャーリーグですごい有名になった野球選手だからこそ「僕の最近の気持ち的には」などとテキトーに書くだけで見てもらえるんです。 pato:そうですね。 田中:宇多田ヒカルも「何々食べたい」とかだけでOK。宇多田ヒカルだから。 pato:「宇多田ヒカルだから」。 田中:それがわかっていない人が多いから、スターのエッセイとか読んで、「こういうの書けば文章なの?」って思う人が多過ぎる。 pato:ですよね。だから、書いていることのたぶん8倍ぐらいはもう行動しないと、取材なり原典に当たるなり、資料当たるなりはしないとダメですね。 田中:しかも、取材したこととか準備したことって、まあほとんど捨てますよね。全部書いていたらキリがないから。 pato:そうですね。もったいないなと。 田中:もったいない。でも、富士山だって、登る間にもっといろんなことを見たり、写真も撮っているけど、やっぱり捨てていくじゃないですか。 pato:そうですね。写真は大体Web記事に載せているものの30倍ぐらい撮ってる田中:そう。ヨッピーさんもやっぱり調べていますよね。 pato:すごく調べています。 田中:ヨッピーさんの記事も好きだけど、基本的にはファクトですよね。「僕はこう思う」みたいな主張は無くて、やっぱり「突撃で調べてみた」というのがベース。
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ネットで炎上しやすいテーマの共通項とは?
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pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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