世界一周の旅……。言葉だけ聞くと実現不可能に思える壮大な旅だが、かたや車椅子、かたやサラリーマンでありながら、それを実現させた男たちがいる。
週末だけで5大陸18か国を回る
乙武洋匡氏(左)と東松寛文氏(右) <撮影/荒熊流星>
前者はご存知、乙武洋匡氏。近著の『
ただいま、日本』では、そんな世界一周の様子を描いているが、同書の発売後も積極的に世界を飛び回っている。
そして後者は、リーマントラベラーとして知られる東松寛文氏だ。『休み方改革』など、旅行関連だけでなく日本社会の労働環境についても鋭い意見を発信し続けている。
そんな2人はいったい何故世界一周をしようと思ったのか? そして、いまだに世界中を飛び回っているのか? その理由に迫るべく、話を聞いた。
——お2人が知り合ったキッカケは海外旅行関係ですか?
乙武洋匡氏(以下、乙武):「僕は2年前ぐらいから東松さんの存在を知るようになりました。マイナーな国に行こうと思って事前に調べると、いろいろ旅の内容を綴ったブログが出てくるんです。そこに大体東松さんのブログ(リンク入る)も出てくるので、読むようになりました」
東松寛文氏(以下、東松):「僕は『五体不満足』のときから知っていました。
ブログを始めたのは‘16年ぐらいで、’15年までは普通のサラリーマン。’16年にリーマントラベラーを立ち上げて、10~12月の3か月間、毎週末海外旅行に行ったんです。
サラリーマンが世界一周するには、仕事を辞めないとできないのはおかしいと思って。あと辞める勇気もないし(笑)。日本にいる期間を『トランジット期間』と言い張ればいいやと、5大陸18か国を回ったんです」
乙武:「途切れ途切れだと航空運賃がもったいないですよね?」
東松:「会社は辞められないので、もったいないけど行くしかないな、と。お金はかかるけど、行くと毎回自分が研ぎ澄まされるんです。特に僕は日本に帰るので、いったん日常に戻る。
僕は帰りの飛行機の時間を『自分探しの旅』と呼んでいて、日常と非日常の間に、非日常でゲットした気づきとかを整理して内省するんです。そうすると自分の好きなことや得意なことがわかってくる」
乙武:「旅行って“遊び”だと捉えられがちだけど、自分を成長させる糧になるんですよね」
東松:「これまでは自分に軸がなかったんですよ、飲み会とかもなんとなく全部参加していたけど、お金を意識して使うようになったら、今は自分の行きたい国ぐらいは行けるようなお金の回り方になった。普通のサラリーマンの給料だけなんですけどね」
乙武:「僕も似たところがある。旅に出るまでは毎日のように会食が入っていました。ところが、ヨーロッパに5か月滞在していたけど、彼らは仕事関係の人と会食をするときは、ほぼランチミーティングなんですよ。夜は同僚とかとパブで1、2杯飲むことはあるけど、基本夕飯は自宅で家族と過ごす。17時でオフィスワークは切り上げて、19時までパブで飲んで、そこから家族と食事。
そういうライフスタイルを見たとき、『帰国後はどうしようかな?』と。結局、帰国してからは週1回ぐらいしか会食を入れていませんが、別に支障はないですね。旅をするようになってから、残したいものと残さなくていいものの線引きができるようになった」
東松:「モノの見方も変わりましたね。友達が持っているからほしいとか、iPhoneの新型が出たらほしいとか、ブランドバックがほしいという感覚は消えて、自分が必要だからほしいという風になった。そうしたら、結果、使える額は増えて、人生の満足度はかなり上がりましたね」
乙武:「自然災害の多い日本で、モノってなくなる可能性が大きいんですよね。家も車も洋服も。だけど、経験は絶対に奪われない。そういう意味では、費用対効果が高い。泥棒にも災害にも奪われない資産ですよね」