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『小説 孤独のグルメ』の著者が原作者の久住昌之氏と対談。「『孤独のグルメ』という看板を背負って小説を書くのは緊張した」 

小説の一話目を久住さんにおもしろいと言ってもらえて自信になった(壹岐)

壹岐:何とか小説の一話目を書き上げて、書き上げたものの不安も大きかったんですけど、久住さんから「おもしろいじゃないですか」と言っていただけて、それが本当に自信になったんですよね。 久住:もともと自分がつくった漫画が小説になるって不思議な感じですよね。体験したことがない。一話目ももちろんよかったんだけど、回を重ねるごとにじわじわおもしろくなっていく感じが、漫画の「孤独のグルメ」と一緒だなあと思いました。漫画も、最初はあまり反応がなかったんですよ。8ページ読んでも、何が起きるわけでもないし、爆笑エピソードがあるわけでもないし。それが3話目、豆かんを食べて五郎さんが「うまい!」って顔をするあたりから、谷口さんもノッてきて、読者にもおもしろさが伝わりはじめた。テレビドラマもそうだった。シーズン1のときは、どう観ていいのかわからない、何だろうこのドラマ?って感じだったんじゃないかな(笑)。なぜか小説もそれをちゃんと踏襲してるなと思いました。要するに薄味なんだよね(笑)

壹岐さんの文章は、一緒に歩いて店を探した人が書いた文章だと思いました(久住)

壹岐:谷口ジローさんに作画をお願いしにいったのは、『事件屋稼業』のようなハードボイルド作品を経て、『坊ちゃんの時代』を描き始めたころで。あの静謐な感じがいいなあと思ってお願いしたんです。今まで泉昌之(原作・久住昌之、作画・和泉晴紀の漫画ユニット)でギャグを描いてきた人が、静謐な筆致の谷口さんと組んだらおもしろいだろうなあと。 だから、最初は何だろうこの漫画?って戸惑う人も多かったのかもしれません。 久住:僕も谷口さんとの初めての作品だったから、最初はいろいろ苦心しました。最初の回は、原作の原稿を送ったら「この分量じゃ、全然8ページにおさまらないよ、この半分でいいから」って言われて、ガーッと減らしたり。原作がこんなに短くていいならラクだなあなんて思ってたんですけど、そしたらあんな素晴らしい絵が上がってくるわけじゃないですか。ラクとは程遠い緻密な絵。絵が語る部分が大きいから、文字はそんなにいらないんだなって改めて気づきました。しかもその緻密な絵が「豚がダブった」とか言ってるんだからおかしいんだよね。 ――小説を読んだ人からは「漫画連載が始まったころ、初期の五郎の雰囲気がよく出ている」という感想も多いです。 壹岐:連載を始めたころに登場するメニューって本当に地味ですよねえ。自分自身、味にこだわってますとか言わないような、取り立てて特徴がない店が好きで、小説でもそういう店ばかり書いてます。神保町でも、有名なカレーや洋食を全部無視してチェーンの牛丼屋に入ったり。 久住:ドラマは、長くやっているから「地味」だけじゃ続けられないんだろうけど、でもやっぱり元は取り立てて特徴のない地味なお店を描いてきた作品なんですよね。 ――毎回写真家・滝本淳助さんの撮影した東京の風景が挿入されましたが、滝本さんの写真を挿入しようと思ったきっかけは? 壹岐:いやもう、単純に滝本さんの写真が大好きなんですよ。いろいろなものを撮っているんだけど、何を撮っているわけでもない。それでいて、80年代、90年代の東京の雰囲気がしっかり伝わってくる。なかなかないですよね。それに滝本さんは、漫画の『孤独のグルメ』でも、滝山として登場しますし(笑)。 久住:劇団の写真とかもさ、滝本さんの写真は、外から撮ってるんじゃなくて、内側に入り込んで撮ってる感じなんだよね。 壹岐:RCサクセションの写真も、清志郎じゃなくてCHABOさんばっかり撮ってたり。 僕はCHABOさん大好きだから、うれしくて。でも、滝本さんのおもしろさって、ちょっと伝わりづらい部分もありますよね。『タキモトの世界』(13年、復刊ドットコムより復刊。滝本氏と久住氏の伝説的雑談集)は久住さんと滝本さんの共著ですが、久住さんがタキモトさんのおもしろさを翻訳してみんなに伝えてくれている本でもある。 久住:タキモトの発見(笑)。
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「いい店はここを見ればわかる」なんてものはない
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小説 孤独のグルメ 望郷編

井之頭五郎が小説になって帰ってきた!!

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