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“アマゾン効果”が招く不況。AIが価格と賃金を押し下げる

韓国では値下げ合戦が白熱

 例えば、“韓国のアマゾン”と呼ばれ、ソフトバンク・ビジョン・ファンドから多額の投資を受けている「クーパン」は、価格決定アルゴリズムで商品の値段を自動調整しているという。値段調整に用いられるのは公式オンラインストアの値段、60日価格平均などさまざまなデータだ。ECが日本以上に発展する韓国では、クーパン以外にも業者が乱立。値下げ合戦が白熱している。日本のあるAI専門家からはこんな指摘もある。 「企業単体のアルゴリズムというよりも、さまざまなAIが互いに干渉し合って人間の目に見えない影響を社会に及ぼしている可能性はある。例えば、金融界ではAI取引が常態化し、株価や為替の乱高下の原因になっているのはすでに常識です」  流通評論家の渡辺広明氏は言う。 「在庫処分などの“損切り”は別として、原則的に小売業者の販売価格がメーカーからの仕入れ価格、すなわち原価を下回ることはない。したがって、アルゴリズムによる価格調整があったとしても限界がある。  それよりも問題なのは、一定レベルの安売りが常態化するとメーカー側がブランド棄損のリスクにさらされてしまうこと。アマゾンやZOZOなど大手ECとブランドの折り合いがつかないという話はよく話題になりますし、米国で大手小売業者を通さず消費者への販路を直接開拓するD2Cブランドが台頭してきたのも、メーカーがブランド棄損から自社製品を守るという文脈が大きい」  付加価値が高い、ブランド力のある商品が高値で売れにくいというのもデフレ経済の特徴だ。価格調整アルゴリズムが、自社の価格合理性を保つためにメーカーのブランド力さえ食いつぶしているという殺伐とした風景も見えてこないだろうか。 AIデフレ こうした状況のなか、AIは物価だけでなく、デフレのもうひとつの要因である労働者の賃金低下を招くこともわかっている。最近、米国で話題となったのがサンフランシスコ連邦準備銀行の経済学者、Sylvain Leduc氏とZheng Liu氏による報告書だ。AIやロボットによる自動化が進むと、労働分配率が下がるという研究成果が発表されたのだ。  なお、労働分配率とは、雇用者報酬を国民所得で割ったもので、生産活動によって得られた付加価値のうち労働者が受け取った割合を指す。わかりやすく言えば“労働者の取り分”だ。両氏によれば、米国の労働分配率は’00年から約7%も下落しているという。『AI時代の労働の哲学』の著者である社会学者・稲葉振一郎氏は指摘する。
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本家と労働者の対立
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