eスポーツ 今後の方向性
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第2回の対談でも触れたように、eスポーツ特有の問題がネックになって、IOC(国際オリンピック委員会)からは正式に競技化は難しいという見解が出ましたが、メディアでは「eスポーツのオリンピック競技化を目指している」ってコメントがいまだに流れることも……。推進側は、まだ夢を諦めていないんですかね。
木曽崇:目指しているっていうのは間違いないから(笑)。IOC側は、リアルスポーツのシミュレーションゲームに関しては採用しやすいってことはずっと言ってて。それはルールが変わらず、普遍的だからです。たとえばサッカーのゲームだったら、FIFAのルールがそのまま採用されるわけで、ゲームのコントロール権はスポーツ競技側にあります。そういうゲームであればオリンピックゲームとしては扱いやすいけど、メーカーの都合でころころとルールの調整が入るゲームは、そりゃあ競技の公平性の観点から採用するのはしんどいよねっていうのはわかる。
POKKA吉田:JeSUのこの感じって、ライブドアが近鉄を買おうとしたときのホリエモンにすごい近い気がする。できてる既得権益にのっかりたいの。オリンピックっていう、もともとある世界規模の風呂敷に乗っかって、ええ思いをしたいわけでしょ。JeSUがプロ制度で既得権益を作ろうとして失敗したからって、オリンピックに乗っかろうというのは筋違いやわ。一般的なスポーツもeスポーツも世界中で独自の大会は開かれてるわけだし、日本ならではのコンテンツ力を生かして、自分らで立ち上げればええと思う。それこそサイバーエージェントの藤田晋さんが立ち上げた麻雀のMリーグなんて、1からルールを作って、プロ雀士もMリーガーになることを目指して、ってやってる。ああいう形が正しいんじゃないか。
木曽崇:Mリーグは法律問題とは離れたところで「自分たちでムーブメントを作りましょう」ってやったわけで。JeSUがそういうことにチャレンジするんだったら、各メーカーがお金出すんじゃないですか。
————それにしても、世界各国ではeスポーツの興業で巨額のお金が動いているのに、日本は完全に出遅れてますよね。
木曽崇:JeSUの理事はみんな日本のゲームメーカーばかりで、一義的には日本のタイトルを世界のeスポーツタイトルにするための団体なんですよね。競技者の立場からすると、世界で今一番流行っている大きなゲームをやりたくて、その日本代表として世界に出ていって大きいタイトルを目指したいわけじゃないですか。残念ながら、そこが完全に分断されてるんです。メディアはどうしてもJeSUの出すプレスリリースに引っ張られるのでそっちの話しか目立ってこないんだけど、じつは日本国内でもJeSUとはまったく違うeスポーツの世界というのが存在しています。
————日本のプレーヤーはもはや日本の大会を見ていないってことでしょうか。
木曽崇:いちばんわかりやすいのは『ストリートファイター』(カプコン)で、JeSU傘下の国産ゲームをプレイしている人たちはJeSUライセンスを持ってなきゃいけないのが前提なんですよ。でも、法律的にはべつに、プロアマ問わず賞金は満額をあげてもいいんです。けど、JeSUのルールでは満額もらえるのはプロライセンス持ってる人って限定しちゃってるし、ジュニアライセンスの人にはお金あげちゃいけないってルールになってるので。JeSUの問題は、そのルールを「法律を回避するため」とずっと言ってきたことにあるんだよね。消費者庁からは正式に「いらない」って言われたわけで。じゃあなんだったん? っていう話にしかならないですよね。
————そうなると、あの人たちの存在意義って…
POKKA吉田:ないんじゃねぇの?(笑)
木曽崇:プロ制度に関しては、ない(笑)。「東京ゲームショウ2019」の講演会でJeSUが「プロライセンス要りませんでした」って発表した数日後に、同じ東京ゲームショウで行われたストリートファイターの大会でJeSUライセンスを唯一持っていない有力プレーヤーのももち選手が優勝したんだけど、ライセンスを蹴って賞金10万円(含む賞品)しか受け取らなかったんですよね。本当に奇跡的なタイミングだった。ももち選手は2018年の大会でも入賞して、そのときも賞金10万円しか受け取らなかったし、完全に“持ってる”な、あれは(笑)。
————今後、第2、第3のももち選手が出てきそうですか。
木曽崇:『ストリートファイター』や『鉄拳』(バンダイナムコ)などの格闘ゲームに関していえば、JeSU傘下でやると言い続けてるので、有り得ますね。ももち選手が今後ずっとライセンスをとらないと言い続けるのならば、彼が優勝するたびに「また賞金が満額払われなかった」ということになるでしょう。
POKKA吉田:バンダイナムコはわかんないけど、カプコンは規模も大きくて国内で評価されてるわりに、何年か前に調べたときにたしか海外の売り上げはそんなにないので。カプコンのストリートファイターがJeSUとなかなか手を切れないっていうのはすごくわかる。
————どんどん大会の格が下がってくるというか、日本のゲームメーカーにとっても好ましくない状況ですよね。ゲームメーカーはJeSUとは手を切ったほうがいいわけですか。
木曽崇:そうだと僕は思ってるよ。だけど、そうではないと思ってる人たちがゲームメーカー側にいるのは事実。メーカーからしてみると「ももち選手はなんでライセンスとってくれないんだ」って気持ちでしょうね。本来はライセンスがなくても賞金はフルでもらえるのに、JeSUのルールに従っているがゆえにその人に賞金を与えられない、もしくはその人をトーナメントそのものに参加させられないというかたちになる。それって、ゲームメーカーにとってはマイナスにしかならないです。
POKKA吉田:それをおかしいと思うかどうかは、立場の違いやね。どっちが正しいかっていうより、どっちがスマートか、どっちが滑稽ではないか、っていう話やと思う。ゴルフやったら、アマチュア選手がプロのトーナメントで優勝して賞金もらえないからといって「なんで賞金払わねぇんだ!」なんて言わない。みんなプロライセンスを目標にしてトーナメントに参加してるもんね。けれど、話を聞いてると、ももち選手はたぶんそういうメンタリティにはないよね。
木曽崇:ライセンスあげるって言われてずっと断ってる。
POKKA吉田:それがおもしろいよね。野良やけど最強。JeSUから見たら野良やけど、世の中から見たら野良じゃないっていう。俺は大阪府堺市生まれで、阪田三吉っていう将棋指しが生まれた土地なの。彼は真剣師と呼ばれて将棋で金のやりとりをしてたらしいんやけど、最終的には将棋の世界に入って、関西陣営として関東陣営とバチバチに戦ったのね。それって、野良でやるよりも将棋界に魅力を感じたってことじゃないの。浜村さんとかJeSUとかが、これから先マイナーチェンジでもして魅力があるって感じたら、プレーヤーもライセンスを受けようって思うかもしれんし。もし魅力がなければ、ずーっと野良のままでいるかもしれないよね。