健康診断を会社に義務づけられ、人間ドックも定期的に受けろと言われ、保険会社のCMに不安をかきたてられ。人生100年、長生きしたいならまず検査と、何かとプレッシャーがかかる現代社会。しかし、その検査は本当に必要なのか? 今、各メディアが取り上げるこの問題を医師たちに直撃すると、意外な実態が語られた!
「受けるべきではない検査」と「受けるべき検査」
医師が考える「受けるべきではない検査」とは何なのか? その筆頭が、胃がんの「バリウム検査」だ。その理由を、とうきょうスカイツリー駅前内科の金子俊之医師はこう解説する。
「日本以外では実施されていないがん検診の典型。内視鏡のほうが精度、安全性において優れているので、必要ありません。進行がんの見落としも多く、体内環境をかき乱すので、他の病気を誘発する恐れもあります」
医療ガバナンス研究所の上昌広医師も「放射線を浴びることで、検査によって生じる“二次がん”発症リスクが高まる。それゆえ海外では、批判する論文が出ているほど」と否定的だ。
続いて、全身のがん細胞の有無を検出する「PET検査」は、6割以上の医師が不必要と判定。
「米国医学会でも、がんの発見率が1%前後と極端に低いことから『健康な人へは控えるべき』としています。また、がん患者以外も陽性となる“偽陽性”を示すことが多いので、過剰医療に繫がる恐れもあります」(医療経済ジャーナリストの室井一辰氏)
3位の「直腸指診」は古くからある大腸がん検診だが、精度に問題があると上医師。
「約150㎝もある大腸の状態を、たった10㎝程度の人さし指でどうやって診断するのか。問題なしで安心しきっていると、逆に危険です」
さらに、5割近くの医師が「必要ない」と答えた腫瘍マーカーは、「本来、術後の経過観察に利用する検査」と金子医師。
「血液を調べるだけと手軽ですが、偽陽性を示す確率も高いので、がん検診としての有効性は低い。同様に、血液1滴でがんの確率を判定する『アミノ酸検査』もまったく意味がありません。『将来、がんになる確率20%』とあいまいなことを言われ、ムダに不安を煽られるだけです」
また、今では日常的に行われているCT検査やMRI検査だが、「検査機器が高額であるがゆえに、導入した医療機関はどうしても利益優先で検査を増やしがちになる」と岡田医師は言及する。
「例えば、CTやMRIを使う『脳ドック』。小さな脳動脈瘤が見つかったばかりに、『頭の中に時限爆弾を抱えている』と医師から告げられ、手術に踏み切る患者が少なくありません。しかし、手術を受けた患者と断った患者の5年後、10年後を追った追跡調査では、手術を受けた患者のほうに不利益が生じる率が高かった。これは手術することで脳卒中や不整脈を誘発したり、血管が破れて後遺症が残ったり、場合によっては死に至るなど、健康を損なうリスクが高まったということです」
そして今回、ランキングには入っていないが、上医師は「胸部X線も意味がない」と指摘する。
「もともと結核患者を見つけるための検査。健診事業が厚労省や自治体の天下り先となっているので『X線で肺がんが見つかる』というフィクションを生み出すことで、今も続けられています。しかし、精度があまりに低く、肺がんリスクを考慮するのであれば、より精度の高い低線量CTを5年に一回受ければ十分です」
※調査概要:30歳以上の現役医師200人に質問・回答を得た
●1位 バリウム検査 126人
「放射線被ばくによる二次がんリスクが高く、有効な検査であることを実証した証拠は一切ありません。即刻やめるべき」(岡田医師)
●2位 PET検査 122人
「微小ながんは見落とす可能性がある上、全額自己負担で10万円前後と非常に高額。無理に受ける必要はありません」(岡田医師)
●3位 直腸指診 97人
大腸がん検診の一つ。「肛門付近しか調べられないので、直腸指診で異常なしだからといって大腸がんではないとはならない」(上医師)
●4位 腫瘍マーカー 95人
「国が健診で推奨していないのはがんの見極めができないから。がんの術後の経過を判定するのに適した検査です」(金子医師)
●5位 MRI検査 84人
「特別な症状のない人には不要な検査。特に、慢性頭痛でのMRI検査は過剰医療と指摘され、ビジネスの要素が強い」(室井氏)