更新日:2020年03月26日 10:21
エンタメ

逆境ソング「LOVEマシーン」の考察、暗い世相の時こそ聞きたくなる

ディスコのリズムに日本人は抗えない

恋のダンスサイトⒸzetima

 まるで現在は1999年の焼き直しとも感じる社会状況に突入しており、さらに新型コロナウイルスの影響からか、当時よりも未来への希望も感じにくく感じる。  筆者も当時、大学生で就職活動の真っただ中。そうそうに就職活動をあきらめていたが、周囲は全く内定が決まらない状況で冬を迎え、正社員で雇ってくれるというだけの理由で、大学の紹介した(!)消費者金融やパチンコ業界でも就職したりしていた。  筆者はその現実を直視することをやめ、「弁護士受験か大学院に逃げる!」とうそぶきながら、全然足りない単位を尻目に親の金でレコードを漁り、クラブでDJの真似事をして“渋谷系”を気取っていた。そこに登場したモーニング娘。の「LOVEマシーン」は、これまでの“ハイセンス”指向の音楽指向に反しながらもあまりにキャッチーで魅力的に映った。  結果、オシャレな音楽をかけるはずのクラブイベントで「LOVEマシーン」をかけ続けクビに。その時には完全にモー娘。の市井紗耶香にゾッコン、クラブ文化はどうでも良くなっていたっけ……。  渋谷系だった筆者が、なぜ「LOVEマシーン」に特別性を感じたのか。それはディスコのリズムと文法で作られた楽曲だということ。これは、前述の楽曲群も同様だ。明るくも切ないメロディラインに、繰り返しの多いリズムパターンは日本人にとって抗いがたい魅力がある。  ロック風の曲調は今でも若者の音楽のイメージをまとっているが、ソウル・ディスコは、筒美京平などの貢献もあり演歌にも歌謡曲にもJPOPでも直接的な影響を感じ取ることができる。「和モノ」と言われる、昔の歌謡曲などで踊れる楽曲はどれもソウル・ディスコの直接の影響下にある。歌謡曲とディスコは、「ダンシング・ヒーロー」のリバイバルを例に出すまでもなく相性は最高だ。  また、黒人の精神性が色濃く反映されたソウルと違い、ディスコは精神性を脱色し形式化している。濃いメッセージ性を排除し、愛を連呼することで白人でも楽しく踊れてしまったために全世界的な流行として一世を風靡した。有名なディスコ文化を象徴する映画「サタデー・ナイト・フィーバー」も行き場のない青春のエネルギーをディスコで踊ることで晴らそうとするが、主人公は移民2世の貧乏な白人だ。  歌謡曲の魂をビンビンに感じるのに、洋楽調。メッセージを連呼しているのに、メッセージ性は希薄。ポジティブなお題目なら何でもOKで、万人がそのメッセージを空虚なものと知りつつノレる。シブがき隊の「スシ食いねェ!」を寿司を食うべきだという強固なメッセージが込められているとはだれも思わない。DA PUMPの「USA」も同様だ。

バカバカしさとパワーに勇気をもらいたい

 将来の全く見えなかった当時の筆者には、企画モノで死滅していたはずの女性アイドルの真似事をさせられていた若い女性たちが「セクシービーム!」とこれまたパワーだけある空虚な叫びを見て、平成の「ええじゃないか」運動と揶揄されながらも、その通りとしか言いようのない野蛮さと勢いと、空虚さに衝撃を受けたのだった。  結果、一種やけくその一発ネタだったはずの「LOVEマシーン」は日本を席捲。ソウルのないニセモノのディスコのパワーは、ついにモーニング娘。を本当のアイドルにしてしまった。  1999年当時よりも、未来が見えないといっても間違いではないだろう現在。今一度、「LOVEマシーン」を聞きなおしてみるとあまりのバカバカしさとパワーに勇気がもらえること請け合いだ。願わくば、同じくらいの“ええじゃないかディスコ”が爆誕して日本中に鳴り響き、老若男女が脱力しながら踊るバカになることで、ニセモノの空元気パワーもホンモノになり新たな“ニッポンの未来”になる……かもしれない。 <文/久保内信行>
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