地下アイドルにも忍び寄る! コロナショックの余波
コロナショックがエンタメ業界を容赦なく襲っている。48グループ、ハロプロなどはライブや握手会の中止・延期を早々と決定。その損失額は計り知れず、関係者は断末魔の声を上げている。大手事務所ですらこのありさまなのだから、“地下アイドル”と呼ばれる層はいよいよのっぴきならない状態と見る向きもある。
だが、こうした意見に異を唱える識者もいる。自らも地下アイドルを10年以上続けてきた姫乃たま氏は「少なくとも今の段階では、地下アイドルとしての金銭的なダメージは少ない」と言う。
「大手はメンバーの移動費、人件費、会場費、グッズ製作費などイベントの中止で莫大な損失が発生しています。地下イベントの多くはワンマンではないので、会場費はイベンター持ち。要するに収益も少ない分、損失も少ない。困窮するとしたら、生活資金を稼ぐための“本職”を失った場合でしょうか」
自身も月に数本のアイドルイベントを主催するライター・大坪ケムタ氏にも見解を聞いてみた。
「アイドル戦国時代といわれるブームが始まったのが2010年。しかし’18年頃から大手も地下も飽和状態となり、シーンの勢いは失速。そこにダメ押しでコロナが来た。経済的に“大打撃”とまでいかなくとも、ムーブメント復活からさらに遠ざかったとも言えます」
そもそも地下アイドルの定義や収益システムはどういったものなのだろうか?
「基本的には①CD販売やメディア露出ではなく、ライブや物販での収益を軸とする、②小規模なライブハウスでの5~30組が出演するイベントが活動拠点であるという2点が当てはまれば地下アイドルと言えます。また、①を細かく見ると、チケット販売収益はほとんどあてにせず、1000円程度で売られるメンバーとの“チェキ会”がビジネスのカギ。チェキの原価は100円以下で、多くのグループが収益の7割近くをチェキ会に頼っている現状です」(大坪氏)
また、チェキ会では撮影や会話だけでなく、腕組みやハグといった“濃厚接触”ができることも魅力のひとつとなっている。
こうした“濃厚接触”サービスが収益の柱である以上、多くの地下グループはライブとチェキ会を決行せざる得ない状況なのだ。
「ほとんどはマスク着用や接触前の消毒液使用といった工夫をしていますが、“濃厚接触”そのものと言えるチェキ会に対して、自粛ムードの圧力が高まっているのも事実。地下アイドルはチェキ会ができなくなっては生命線を断たれたも同然。そうなれば、解散や活動停止といった脱落者が出ることが予想されます」(同)
コロナ騒動後「縁のあるライブハウスからキャンセル穴埋めのためのオファーが急増した」と語る姫乃氏。現状をこう嘆く。
「本音を言えば、非常時なんですから、イベントなんてすべて中止にすべきです。だけど国から助成金が出ない現状では、ライブハウス側が泣く泣く損を被るしかない。今までお世話になった現場のスタッフさんから窮状を訴えられたら、私も出演せざるを得ません。自分でも矛盾しているとわかっていますが、どうしていいのやら……」
先行き不透明ななか、地下アイドルたちにもそれぞれの事情がある。コロナショック下でもがき苦しむ彼女たちだった。
<地下アイドル歴史年表>
’92年……元祖・地下アイドルとされる水野あおいらが活躍
’97年……秋葉原の歩行者天国にてライブを行う「アキバ系」隆盛
’05年……メイドカフェ店員によるユニット・完全メイド宣言が「萌え~」で流行語大賞候補に
’11年……メンバーがほぼ全裸で出演するMVをBiSが公開
’13年……地下アイドルを描いた朝ドラ『あまちゃん』が放送
’14年……でんぱ組.incが武道館で公演開催。1万人超を動員
’15年……仮面女子がインディーズアイドル初のオリコン1位
’18年……愛の葉Girlsメンバーの自殺が社会問題化
【姫乃たま氏】
10年にわたる地下アイドル活動を経て、文筆業へ。ライブイベントへの出演も多数。著書に『職業としての地下アイドル』(朝日新書)など
【大坪ケムタ氏】
フリーライター。近年はアイドルを中心としたトークイベントも積極的に開催している。近著に『レスラーめし』(ワニブックス)
<取材・文/週刊SPA!編集部>
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