「偽装融資」と「会社ぐるみの書類偽造」事件
またあるホテル事業会社(企業A)では、代表者の親族が営む別会社(企業B、中信の融資先)に対する不良債権回収のため、中信担当者がその親族(企業B社長)をそそのかし、勝手に企業A代表者らの印鑑を持ち出させたうえ、担当者が企業A代表者の署名も偽造するという形で、偽装融資を繰り返し行った。
被害者である企業A代表者は、
身に覚えのない担保設定がなされていることに気づき、中信の不正を知ることとなる。その後中信とのやり取りの中で、
偽造された多数の契約書類が存在することと、企業A代表者と会ったという当時の担当者は中信の中に誰一人存在しないことが明らかになった。
中信は一旦は謝罪し、1億5千万円の担保を無条件で外す等の示談案を提示してきた。しかし真実を明らかにしたいと考えた企業A代表者は、偽装融資だけでも10億円を超える金額を中信に収奪されたとして中信を訴えた。ところが
裁判となるや一転、中信は「企業A代表者本人と契約をした」と虚偽主張をしてきたのだ。
中信は裁判の中で様々な虚偽主張を展開し、証拠を変造・捏造するなどして不正を隠蔽し続けた。たとえば、企業A代表者親族の個人財産までもが企業Bの債務担保に取られ、無断で収奪されていたことが判明したのだが、その親族の中には、入院中で寝たきりの者や障害で判断能力のない者、小学生の子供など、物理的に契約ができない者まで含まれていた。
また中信は、
すべての契約について「企業A代表者本人と契約した」、そして多数の偽造契約書類について「保存期間経過で廃棄した」との主張を繰り返していた。ところが裁判所が、「金融機関が常に正しいことをしているとは思っていない。契約書類がないならないという前提で判断せざるを得ない」と述べた途端、中信はそれまで「廃棄した」と言い張っていた契約書類を多数証拠資料として提出してきたのだ。
当然、それらの契約書の署名は偽造であり、「いつ」「誰が」「どこで」契約したのかを記録するための「面前自署確認欄」には、会ってもいない企業A経営者から「署名押印をもらった」との虚偽記録までなされていた。しかも中信は、その虚偽記録の事実を認めたうえで、「そのようなことは当時はよくあった」と、全く悪びれる様子もなく開き直ったのである。
結局、中信が所持していた口座明細記録から、偽装融資の融資金は、企業Bの中信への返済金に流用されていたことが判明した。つまり中信は、融資金を企業A代表者が使っていない事実を知りながら、意図的に裁判で虚偽主張をしていたことになる。
そして最終的には、
中信側の証人として出廷した同庫元行員2名が、それまでの中信側の意向に沿った発言を覆し、「ホテル経営者と会ったことも意思確認したこともなく、全て経営者の親族(企業B経営者・中信の不良債権者)と契約した」と証言。また、別の職員は
「契約内容白紙の書面に保証人4名の署名押印をもらい、その後、その白紙の書類に契約内容を加筆し、しかも保証人を連帯債務者に書き換えてまったく別の融資契約を捏造した」との事実を法廷で証言。ついに真実を認めたのだ。
結果、大阪高裁は「証拠として提出されている債権関係書類について、経営者や家族は書類作成に何ら関与していない」「行員が署名を面前で確認したとは認めることはできない」と判断。企業B代表者が勝手に企業A代表者らの印鑑を持ち出し、中信職員らと無断で偽装契約等を行っていたと中信の不正を認定し、その後、最高裁で確定した。
一連の事件について、筆者は何度か中信に対して取材を申し入れている。裁判進行中であった2017年当時に取材した際の中信側の回答は
「当金庫は地域金融機関として、経営改善、再生支援について、金融庁の行政方針に基づき再生支援協議会や経営改善支援センターを活用して真摯に取組みを行っています。ご質問のような事案は認知しておりません。したがつて、前提事実が異なる為ご質問にお答えすることはできません」
というものであった。しかし、最高裁判断が出た後に再度取材した際は、
「個別案件について回答することは差し控えさせていただきます」
との内容に変化していた。おそらく、誰にも知られないまま内内で処理しようとしていた不正が明らかになったことで、不用意に多くを語りたくない意図があるものと思われる。