更新日:2020年09月08日 16:45
ライフ

「ゴミ屋敷」に暮らす生活保護受給者の声。後遺症と毒親の呪縛に苦しみ…

後遺症と毒親に追い詰められうつを発症

 大森さんは、生活保護を受給するようになるまで、昼は不動産管理会社で顧客管理、夜は配送業と、昼夜を問わず働き続け、年収は600万円代後半だったという。ダブルワークの理由を尋ねると「頼まれると断れない性格だからかな」と苦笑いした。 「2月の寒い夜でした。先輩に頼まれ、つい夜の仕事を引き受けてしまったんです。昼の仕事は、オフィスワークとはいえ気を使う仕事。疲れが溜まっていたのを無視して働きすぎたのが原因で、事故を起こしてしまいました」  ブラックな職場環境では、仕事ができる者ほど損をする。さらに人がいいとあっては、重労働をなすりつけられる標的となる。大森さんは夜間の足元が悪いなかで集中力が切れ、重い荷物を抱えたまま転倒。股関節を骨折し、ほかにも数か所の打撲を負った。 「事故にあうまでは品川区のワンルームマンションに住んでいました。オフィス街に近く、新築で家賃は11万円。そこから一変、生活保護を受けることになりここにたどり着きました。以前は岐阜の山奥で仕送りを待つ両親のためがむしゃらに働き、必死に稼いでいましたが、今は受給額13万円とバイト代2万円を合わせても年収140万円程度。好物だったラーメンも食べられず、100円おにぎりをかじる暮らしになってしまいました」  事故当時、入院先の病院から「怪我をしたのでしばらく仕送りできない」と連絡した大森さんに両親がかけた言葉は「来月の仕送りは15万円頼む」、「車を買うから頭金を出してくれ」というお金の無心のみだった。 「両親は田舎で小売店を営んでいましたが売り上げは年々落ちていて、いつ店をたたもうかという状態でした。そんな中、母は家業の合間にパートを掛け持ちして大学の学費を工面してくれたんです。毎月の仕送りは、僕のわがままを聞き大学まで進学させてくれた両親への恩返しのつもりでした」

ハローワークはブラック求人だらけ

 年金未納だった両親の老後を思い、親名義で貯蓄までしていたという。しかし、重傷を負い、副業がバレたために本業の仕事までも失いかけていた状況にもかかわらず、息子の体調を気遣う言葉がなかったことで、大森さんの心は壊れた。 「言われるがままに仕送りし続けたことで、両親にとって僕はただのATMになっていたということです。それが本当にショックで、足元がガラガラと崩れ落ちるような感覚でした。退院後、自宅から出られなくなってしまったんです。両親に言われた最後の言葉は『あのとき、おまえを堕(おろ)しておけばよかった』です。以降、一切連絡を取っていません。僕は、親を捨てたんです。いや、その逆かもしれませんね……」  精神的負荷となっていた家族と断絶したものの、大森さんのうつは快方に向かわない。近所のコンビニへ行くために4時間もかかる状態が数か月続いた。後遺症の神経炎にも悩まされる中、追い打ちをかけるように会社から一方的な解雇通告される。さらに、家賃未納で借りていた住まいからの退居まで迫られた。 「収入のほとんどを仕送りしていたため僕には蓄えがなく、しばらく引きこもりに近い生活をしていたため、生活費として借金もかなりしていました。会社には親しい同僚もいなかったし、趣味の友達もいない。孤独で体調も万全ではない。生活保護に頼るしか、選択肢はありませんでした」  区役所を訪れると、その深刻度を判断した担当者は大森さんを「別室」に招いた。震える手で必死に名前、住所を書いている最中、担当者の「ゆっくりでいいですから」という言葉に、涙が溢れたという。 「なんとか生活保護受給にこぎ着けたので、現在は生活を立て直したいという気持ちはあります。ハローワークで求職活動は継続していますが、早朝か深夜の仕事ばかり。持病を持つ私には難しい……。オリンピックに向けて何か仕事があるんじゃないかと期待していたのに、期待外れでした。昨年ようやくありついた食品製造のバイトでなんとか糊口をしのいでいます」    事故から10年以上経つ今も、後遺症がある。片足を引きずるようにゴミ山を移動して中を見せてくれた冷蔵庫には、大量の薬が入っていた。 「痛み止めのほか、数種の薬を飲んでいます。体調の優れない日もあり、思うように働けないのがいちばんの悩みです」  大森さんは2年前に脳炎で、昨年は熱中症のほか関節炎でも入院を経験している。うつは薬でコントロールできているというが、すみかの荒れようも確実に体調に影響を及ぼしているようだ。 「生活保護からは抜け出したいけれど、あの頃のようにはもう働けない。少しでも条件のいい仕事はないかと、じっと、求人票を見つめる日々です」  部屋は、心のありようを映す鏡とも言われる。部屋と体調と仕事、大森さんはどこから片付け始めるのだろうか。 <取材・文/週刊SPA!取材班>
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