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徹夜続きの東京暮らしから郷里へ。18㎡の自作小屋が変えてくれた人生観

 気に入った場所が見つかったら小屋を建てる。そこが、遊びの拠点になる。プライベートに自然と向き合う。小屋という装置がそんな贅沢な時間をくれる。小さな小屋だからこそ、お気に入りのデザインを追究できる。そんな小屋の魅力とは?

小屋のある暮らし訪問 第3回 成瀬洋平さん(岐阜県中津川市)

小屋のすべて

夕闇に浮かぶ成瀬さんの小屋。急勾配の屋根を抱くシルエットと、正面のヤマハンノキが呼応する

 日本百名山に選定された恵那山や清流で知られる木曾川など、天然の風景が数多く残る岐阜県中津川市。その山あいで生まれ育ったイラストレーターの成瀬洋平さんが活動の拠点にしているのが、みずからの手でつくり上げた18㎡ほどの小屋だ。
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創作活動に励む成瀬さん。窓越しには山が見え、窓を開け放てば木々に囲まれたような感覚が得られ、描くことに没頭できるという

 雑木林の中を抜けると、木立の中に成瀬さんの小屋が現れる。その佇まいは、端正ですがすがしい。どこかチャーミングな急勾配の三角屋根。塗装を施さず、そのままに表した木の壁や柱。外から見て仰々しい感じは受けないものの、中に入ると快適な広がりのあるスケール感。すりガラスの入った木枠の窓や戸からは、温かさが醸し出されている。  
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雑木林の木立に溶け込むような佇まいの成瀬さんの小屋。チャーミングなドーマー窓がポイントとなっている

 その存在感は、ヘンリー・D・ソローの小屋に似ているようだ。ソローは、米国ボストンの湖畔に小屋を建てて自給自足の生活をし、名作『ウォールデン 森の生活』を著した。暮らしの真髄に向き合う内容は、1世紀半ほど経った現代でも多くの人の心をとらえている。成瀬さんの小屋は普段の生活をする借家の近くにあり、自給自足の生活を送っているわけではない。それでも、この小屋で制作に打ち込んで生み出される自然を題材とした作品には、だれしもが心ひかれるにちがいない。  成瀬さんは窓に面したコーナーに机を置き、気候のよいときは窓を開け放って椅子に座る。向かい合うのは、外の木立と遠く広がる雄大な山並み、そして、真っ白な画用紙だ。紙に鉛筆を走らせ、水彩を施していく。
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窓に囲まれたコーナーに机と椅子を置けば、明かり取りは十分。すりガラスの入った木の建具は、小学校が廃校になるときに譲り受けたもの

「小屋ができて、心のゆとりができたと思う。落ち着いて絵が描けるようになった」。そう成瀬さんが語る小屋の魅力の秘訣は、つくり方にある。  
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絵を描く合間に、読書も。本棚は、小屋を建ててしばらくしてからスギ材でつくり付けた

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電動工具はドリルだけ。自分ひとりで、重機を使わずにつくる
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小屋のすべて (扶桑社ムック)

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