エンタメ

第567回  8月1日「中野ブロードウェイでワーケーション」

・「ワーケーション」って、今のところはそのワードセンスが笑いものになってるだけみたいだけど、実際どうなんだろう。皆さんは、観光ホテルみたいな空間で仕事ができる鋼の意志を持っておられるでしょうか。 ・小説家の仕事はそもそもどこにいても体一つでできるものだから、シミュレーションのお役には立てるかもしれない。確かに南国の海辺やディズニーランドの列の中で突然思いついてばりばり書いた経験はある。ただしそういうことはいつも結果論である。「仕事と休暇を一緒にやろう」と計画して、実現できるものなのか。 ・話は少しずれるけど、書き物の仕事の場合、ホテルや旅館に缶詰にされることはよくある。温泉があるような宿をとってくれることもある。編集者が同室して24時間見張るようなケース(作家としては地獄)は別として、一人での作業については、これはほぼ無意味だ。そういうときにひたすら原稿書いて成功してる作家さんなんていないんじゃないかと思っている。若い作家志望者には、缶詰にしてもらったら突如すいすい書けるようになるという幻想があるかもしれないが、そんなはずがない。わくわくしながらホテルに入って、1週間で1行も書けなかったという話もよく聞く。 ・もちろん缶詰執筆を成功させている作家はいる。そういう人たちがどうしているかというと、ホテルに行く前に全て、書き終えてしまっているのである。もちろんまだ全然書いてないふりをしてチェックインして、ホテルの中では充実したファシリティーを活用してゆったりと羽根を伸ばし、プールで泳いだりルームサービスで高級ワインを頼んだり、あるいは人によっては愛人を呼んだりして十分に楽しみ……そういう時間の隙間に少しでも原稿を書くかというとそんなことはないのだ(この話を作家に「そうなの?」と聞くのは無意味である……「そんなわけない、缶詰にしてもらえればどんどん書ける」と答えるに決まってるから)。 ・個人的な話をさせていただくと、90年代初頭ノートパソコンとネット(パソコン通信)を使い始めた頃、これでもうどこでも仕事ができると思い、事務所を引き払ったことがあった。それからは国内外の観光地をぶらぶらしながら物書きを続けようと試みた。が、失敗。仕事にはノイズも必要だという結論を得た。それから、情報量が極めて多く、かつ緊張と弛緩が同居している「中野ブロードウェイ」という場所に拠点を置くことにした。これは成功だった。 ・仕事場兼遊び場としての中野ブロードウェイの面白さについてはこれまでも何度か書いた(クリック→たとえばこんなの)。 ワーケーションがもし一般化したら、次のトレンドは移住ということになるだろう。その時に大事なのは「仕事」と「休暇」の融合ではなく、「職」「住」「遊」の一体化だと考えている。 ……………………………………………………………………………………………… ※この話題「中野ブロードウェイでワーケーション」のライブトークVer.はこちらです↓
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。
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