第525回

8月25日「中野ブロードウェイ都市伝説 #11『メーラーデーモン』」

・ドクター中松はプールで潜水して考えを練るそうだ。酸欠状態つまり生命の危機の時にこそ、素晴らしいアイデアが浮かぶという。

・僕はその域には達していないが、メール作業を水中でやることにしてみたらこれがなかなか良い感じなので、皆さんにもお薦めしたい。

・僕が住んでいる中野ブロードウェイの屋上にプールがあって、夏の間はほとんど毎日ここで過ごしている。東京中が見渡せて非常に気持ちがいい。防水ノートパソコンを持ち込んで、仕事もぷかぷか浮かびながらやっている。

・ある時このブールの底まで潜れば、自分ちのWifiが届くことに気付いた、このプールが僕の仕事場(中野ブロードウェイ9階)のちょうど真上の位置にあるおかげだ。

・インターネット上の作業、とくにメールの対応などは、つい時間をかけてしまうものだ。だらだらやっていて気がつくと数時間経過、なんて事も多い。そこで、メールのやりとりはここで、プールの底でWifiにつないでのみ、行うことにした。息が続く時間内に済ませなくてはいけないから、ものすごくはかどるわけである。

・先日そんな潜水作業で、なかなか難航していた。息が持つぎりぎりまでがんばって数分後に、髪を振り乱し白目をむきながらざばあーと浮上したら、ちょうどプールサイドに入ってきた少年と目が合った。少年はびっくり仰天して腰抜かしながら、僕を指さして「メーラーデーモンだ! 」って、叫んでましたね。

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。