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「72+41=10013」は正解?学校教育が子どもの個性と多様性を奪っている

公教育に「当てはまらない子ども」をどうすればいいのか

 村中氏によれば、「日本の基本的な教育システムは明治に構築されてから100年以上変わっていない」そうだ。つまり、先生が黒板の前に立ち生徒が並んで座って教えを受ける、という構図だ。 「細かい部分はいろいろ変わっていますが、『同年齢集団全員が同一の基準・方法で画一的な教育を受ける』という方法はずっと変わっていない。かつては一人の教師が短時間で大人数に知識や技能を授けるというのが最もイノベーティブなシステムでしたが、今はかつての100年分の変化が10年で起きるような変化の激しい時代です。子どもを取り巻く環境がまったく違うし、公教育のシステムは時代に合わなくなってきています。  だから『このやり方が正しい』と教わる公教育を窮屈に感じる子どもが増えているのではないかと思うのです。これは先生個人の能力や資質の問題ではなく、教育システムの問題です。今の教育システムにアジャストできない子どもたちは、特別支援学級、つまり『障害のある子』とみなされることが増えます。  教室のなかに多様性や柔軟性が乏しいと、そこからちょっとでも遅れたりはみ出すことで『特別支援教育』という特別な枠組みしか受け入れ先がなくなってしまうのです」  また、別の角度からもこの問題を見ることができる。「周りよりも勉強が進んでいる子どもたち」の存在だ。 「そういった子どもは、教室では“ただの暇な時間”として過ごしていて、塾や家で自分に合った勉強をしています。では、教室のコンテンツに合った子どもたちはどれだけいるのか。比率はどんどん減っているということになります。これまで通り『年齢とコンテンツの結びつき』を絶対としていいのでしょうか。  冒頭でもお伝えしましたが、数的処理能力と言語処理能力は基本的に別の能力です。数的に理解できていても、言語でそれを表現できないこともある。大人が勝手に『言葉で説明できないことは理解していない』と決めつけてはいけません。残念ながら、今の教育は言葉の能力に寄り過ぎている傾向があります」  では、これからの変化の激しい時代に、学校教育はどのような変化を遂げなければいけないのだろうか。 「すべての子に合ったやり方なんてありません。それならば多様性を尊重して『どれでもいいよ』と言ってあげたほうがいい。子どもは自分にあったやり方を自然にしようとするんです。邪魔しないであげれば本人が考えるし、結果として合っていればいい。自然に出てくるものを尊重して、『教えをもたらす』のではなく『邪魔をやめよう』と、まずは考えを変えることから始めるべきでしょう」  大人たちの世界ではダイバーシティの考え方が頻繁に議論に挙がる。では、子どもたちの世界はどうなのか。ラーニング・ダイバーシティ実現に向けて、価値観のアップデートが今、求められている。 村中直人 臨床心理士。一般社団法人「子ども・青少年育成支援協会」理事、株式会社「クリップオン・リレーションズ」取締役。脳・神経由来の異文化相互理解という視点で2008年から発達障害支援に携わり、発達障害サポーター’sスクールの事業責任者として指導者の育成にも力を入れている。HP村中直人の雑記帳、Twitter@naoto_muranaka <取材・文/遠藤光太>
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