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「行き先はあの世まで」タクシードライバーが病院で拾った客たち

乗客との一期一会

 タクシーは8割方運の要素が多い。何処でどんな乗客を乗せるかわからないが、多くのドライバーは「運」で片付けてしまう。筆者も運で片付けてしまうその1人である。  ある時、文京区の大学病院までの50歳半ば位(推定)オシャレな紳士を乗せた時のこと。バスに乗り遅れたのか、バス停の所で手が上がった。 「運転手さん、いいタイミングで来ましたね~」 「ありがとうございます。たまたま通ったら乗っていただいて、運命ですかね」  当たり触りない言葉でいうと 「運転手さん、あんまり稼いでないでしょ」  と言われた。確かに稼ぎは良い方ではないが何を根拠にそう思っているのかと思い曖昧な返事をすると、紳士は 「実は、私、癌なんですよ。でも、見つかったのではなく。見つけたんです。わかりますか?」  答えに窮しているわたしに、その紳士は語気を強め、 「たまたまじゃない。あなたはこの道を自ら選択して通った結果、私を乗せたんですよ。自ら見つけたと思うか、たまたま見つかったと思うかで、自信がつくし結果も違ってくる、わかりますか?」  紳士は、時間が空き「たまたま」駅前に停まっていた健診車に、日頃滅多に受けない健康診断を暇つぶしに受けに行ったところ、癌が見つかったという。当初は落ち込む日々だったが、たまたま検診車があったから癌が見つかったのではなく、検診車を見つけ自ら受け、癌を見つけたと思うようになったら闘う気持ちになったと。  たまたまと思うか必然と思うかで結果は違うと信じているとも言った。  そして、最後に自分自身を鼓舞するように、 「選択の毎日、それを意識するかで人生がかわってきますからね。「たまたま」なんてありませんからね。すべて必然。これを理解してくれればあなたは稼げますよ」  と言い残し、タクシーを降りていった。その後の精密検査の結果はわからないが、どんな結果であっても受け止めたと信じたい。  人はいずれ死ぬ。そんな当たり前のことを意識せずに人は生きている。しかし、そんなことばかり考えていたら生きてなんかいけない。そんな相反する思いに悩みながら、今日も大学病院のタクシー乗り場の列に並ぶ。
物流ライター。ライター業の傍らタクシードライバーとして東京23区内を走り回り、さまざまな人との出会いの中から、世の中の動向や世間のつぶやきなど情報収集し発信する。また、最大手宅配会社に長年宅配ドライバーとして勤務した経験とネットワークを活かし、大手経済誌のWEB版などで宅配関連の記事も執筆する。タクシー・宅配業界の現場視点から、「物」・「人」・「運ぶ」・「届ける」をそれぞれハード(荷物・人)だけではなく、ソフト(心と気持ち)の面を中心に記事を執筆中。ブログ「吾は巷のインタビュアー!」
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