国債暴落よりインフレ誘導政策のほうが要注意!
マネーな人々 今週の銭格言
【選者】政治経済学者 植草一秀氏
巨額の財政赤字を計上し続ける日本。高齢化社会を目前にするも、一向に進まない財政構造改革論議の混迷が日本国債暴落シナリオの信憑性を高めている。ギリシャのような政府債務危機は、本当に日本を襲うのだろうか。
←【前編】はこちら
政府が発表している国民経済計算なる統計で日本の一般政府のバランスシートを調べると、負債は1037兆円の大台を突破している。しかし、資産も1073兆円と大台に乗っており、両者を比較すると資産が36兆円も上回っている。資産のなかには土地も含まれるが、簿価よりも時価が高いと考えられ、政府の資産超過はさらに大きくなるだろう。
他方、日銀の資金循環勘定で’10年の金融取引表を見ると、国内非金融法人企業が32.7兆円、家計においては10.8兆円の資金余剰になっている。政府は35.2兆円の資金不足だが、これが国内部門唯一の資金不足主体になっているのだ。
つまり、行き場のない国内余剰資金は国債取得にしか行きようがない。これでも余る資金が海外に流出しているというわけだ。
昨今の日本ではデフレが問題にされているが、物価の超安定化は債券価格支持の要因であり、日本国債への投資を促進する環境がつくられていることにほかならない。
したがって、今後、例えば消費増税法案の取り扱いをめぐって、日本国債が売られる局面があるとしても、長期にわたって日本国債の暴落が持続する可能性は低いと考えられる。こうした売られすぎの局面が発生した場合は、逆に日本国債に投資するチャンスと考えておいたほうがいいだろう。
一つ懸念があるとすれば、政治がインフレ誘導政策を強制し始めていることだ。こうしたインフレ懸念の台頭は長期金利上昇をもたらす。この金利上昇は、国債残高全体の利払いを激増させる効果を持ちかねない。インフレ誘導などという火遊びはやめておくべきなのである。
【今週の数字】
一般政府のバランスシート正味資産
36兆円
財務省は日本財政の危機を煽るが、政府のバランスシートは資産超過を維持している。インフレ率はマイナスで推移しており、長期金利が急騰する要因は見当たらない。むしろ、インフレ誘導政策に警戒すべき!
【植草一秀氏】
シンクタンク主席エコノミスト、大学教授などを経て、現在はスリーネーションズリサーチ㈱代表取締役。ブログ「植草一秀の『知られざる真実』」も人気。近著に『日本の再生』(青志社刊)
『『日本の再生』』 日本経済復興への一冊! |
この記者は、他にもこんな記事を書いています
ハッシュタグ