過去の8ミリフィルムを発掘……「実際の映画サークルそのまま」
――エチュードは、実際にやってみてどうでした?
小川:大変でしたね。稽古期間を設けていただいて(映画の配役での)映画研究会のみんなとやっていたんですけど……やっぱりエチュードって、チームワークができていないと止まっちゃったり変な方向へ行っちゃったり、収拾がつかなくなったりするので、まず映研のみんなの距離を縮めていかないといけないし、作品もそれによってどんどん話が変わっていったりしたので、どこに向かっているのか分からなくなる時期もあって。みんなですごく悩みながらやっていましたね。
――大学時代の実際の映研での経験が、うまく活きたところはありました?
小川:経験が活きたというか……映研で起きる事件や部室の感じとかは、めちゃくちゃ映画サークルだなぁっていう感じだったので(笑)。懐かしさというか、自然とそこにいられる感覚みたいなものは、そもそもあったので。作品内の映画サークルの世界観へ入っていくのには苦労しなかったのかなと思います。
――印象に残っているシーンはありますか?
小川:けっこう最初の方で……いちばん最初かな?みんなで昔のフィルムを発掘して映写機で観てみるシーンがあったんですけど。私も実際の映画サークルにいた時に、過去の先輩方の8ミリフィルムを誰かが発掘してきて、それを映写機にかけて観てみたことがあって。ホントそのまんま、あの時の感じだったのが、すごく面白かったですね(笑)
――実際に、同じようなことがあった?!
小川:ありましたね。フィルムがいっぱいあるんです、倉庫とかに。けっこう歴史が長いサークルだったので。フィルムがいっぱい出てきて……みんな、映写機の使い方も分からないんですけど、ググって、頑張って観ました(笑)
――印象に残っている共演者の方はいましたか?
小川:もう、全員印象には残っているんですけど(笑)……やっぱり升毅さんかな。私たちの無茶振りをすごくやってくださるし、あと、常に姿勢が綺麗で。それを遠巻きにみんなで眺めながら「かっこいいね」って言ってたんですけど。本当にかっこいい方でしたね。かっこいいのに面白いっていう……あんな不格好なカツラまでかぶって頂いて、すごいなって思いました。
――本広克行監督の演出を受けてみて感じるところは何かありました?
小川:本広さんって、すごく演出をするというより、けっこう役者に委ねる方だったので……私たちが、どんなにエチュードで混乱したり悩んだりしていても、本広さんは太陽のようにニコニコといつも見守っていて、みたいな感じでしたね。
――本広克行監督の作品は、他にも……?
小川:もちろん『サマータイムマシン・ブルース』(2005年)とかも観ていて、特に『サマータイムマシン・ブルース』とかは、作品の舞台が部室みたいな感じで似たような空気もあるので、あの世界観に自分が入っているのが不思議でもあり、面白くもありました。
――今回、出来上がった作品を観てみてどうでした?
小川:あの……距離がみんな近いなと思いましたね。物理的にも精神的にも、なんか距離が近くて、だからこそ生まれる事件とか感動とかがいっぱい生まれてる作品だなと思ったので。今あらためて観ると貴重というか、距離感の近さが、図らずもですけど……それが癒しになっているなと思います。
――この(コロナ禍の)状況下でってことですよね?
小川:そうですね。
――映画『海辺の金魚』の撮影も、同じ時期にやっていた感じですか?
小川:『ビューティフルドリーマー』の撮影中が、ちょうど『海辺の金魚』の準備期間で脚本を書いてる時期でしたね。昼間はこの撮影をして、夜に帰ってきて『海辺の金魚』の脚本を書いて、また起きたら『ビューティフルドリーマー』の撮影……みたいな感じを繰り返していました。
――女優と監督を切り替え続けるみたいな感覚ですか?
小川:本来は、あまりそういう同時進行はやりたくなくて、出来るだけ。不器用なので。そんなにマルチタスクじゃないので、分けてちゃんとやりたいんですけど、ただ今回に関しては「監督として映画を撮っている役」だったので、映画の準備をしている時間がそのまま役づくりになって、1日中、映画のことに向かっている感じがリアルに出るだろうなっていうのがあって、もうそのままやっていましたね。いい感じにおかしな目をしてるというか(笑)……ちょっとどうかしているみたいな感じが出てたんじゃないかなって思います。
――あらためて『ビューティフルドリーマー』の見どころを。
小川:人と人との距離の近さというか、そこから生まれる本当におかしな事件たち。それを純粋に楽しんでもらえる映画だと思うので、いっぱい笑って欲しいです。
映画
『ビューティフルドリーマー』2020年11月6日(金)よりテアトル新宿、シネ・リーブル池袋ほかにて全国順次公開。
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小川紗良さんに初めて会ったのは、約1年半前。ボクがプロデュースするテレビ番組のMCとしての打ち合わせだった。その時から今も変わらず、凛とした中にどことなく芯を持っているように見える彼女は、とかく思いが強いものに対しては、その表情を一変させる。唐突な熱さが表出する。彼女の出演する映像作品、監督した映像作品も(もちろんこの『ビューティフルドリーマー』も)フルコンプしてみたけれど、未だにどこか掴みきれないし、でも……そこが正しく女優然としているということなのだろうな、とも思う。次回は、せっかくなので、テレビ朝日での彼女の仕事にも焦点をあてながら、さらに少しでも深堀りできたらと思う。
ちなみにボクも関わっている配信番組
【logirl『小川紗良のさらまわし』特別編】では、今回のインタビューでも触れている映画『ビューティフルドリーマー』の特集をしているので、合わせて御覧頂ければ幸いです。
【小川紗良(おがわ・さら)】
1996年6月8日生まれ。東京都出身。早稲田大学卒。高校時代に雑誌に掲載され、芸能界へ。初主演映画『イノセント15』(2016年)や『聖なるもの』(2018年)は海外でも話題に。その後も、テレビドラマ『まんぷく』(2019年、NHK)『アライブ』(2020年、フジテレビ)など多くの作品に出演。その一方で、映画『あさつゆ』(2016年)『最期の星』(2018年)などの脚本・監督を務めるなど、映像作家としての顔も持つ。2021年には映像作家として4作目の初長編映画『海辺の金魚』が公開予定。新映画レーベル「シネマラボ」第1弾、11月6日公開の本広克行監督作品『ビューティフルドリーマー』では主演を務めている。
取材・文/鈴木さちひろ 撮影/Kazuma Yamano
武蔵野美術大学大学院卒。テレビ朝日にて番組等のプロデュースを行なう。ほか、作詞や脚本の執筆、舞台の演出・プロデュースなどを手掛ける。