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日々のほとんどは、本当はグラデーションのなかにある<燃え殻×橘ケンチ>

―[燃え殻]―
 週刊SPA!にて連載中の燃え殻のエッセイ『すべて忘れてしまうから』。夏に単行本化され話題を呼んだ本連載が、「いったん一区切り」という本人の意向を受け、来年1月で最終回を迎える。 燃え殻 2年半に及ぶ連載を振り返るべく燃え殻が対談相手に招いたのは、EXILEおよびEXILE THE SECONDのパフォーマーで、俳優としても活動する橘ケンチ。『すべて忘れてしまうから』を読んで、今までの価値観を揺るがされたという橘と燃え殻が、互いの読書体験を共有しつつ、熱く語り合った。

燃え殻さんの本には、「逃げてもいいよ」と書いてある

――橘さんは自ら立ち上げた本の情報交流サイト「たちばな書店」で、『すべて忘れてしまうから』の刊行直後にレビューを上げてらっしゃいました。もともと、燃え殻さんと交流があったそうですね。 橘:小説(『ボクたちはみんな大人になれなかった』)を読んだ後、何かのタイミングで燃え殻さんのツイートを見て、「あの本の作家さんだ!」と思ってフォローしたら、すぐDMで連絡いただいたんですよね。 燃え殻:「LDHの方だ!」と思って、仁義を切りにいきました(笑)。ちょうど『すべて忘れてしまうから』が出版される頃だったので、本も送らせていただいて。 橘:こういうタイプの本は、あまり読んだ経験がなかったんです。僕は普段、ビジネス本とか自己啓発本を読むのが好きなんですが、前向きで背中を押してくれる言葉が多いんですよね。こうしなさい、ああしなさい、そうすればあなたは変わりますよ、と。でも燃え殻さんの本には、「逃げてもいいよ」と書いてある。逃げた先にもきっと何かあるから、と。 燃え殻:禁じ手ですよね。自己啓発本だったら、「逃げちゃダメだ」って言わなきゃいけない。

自分の内側に正解を求めていく

橘:自己啓発本は「こうすべき」というメソッドが書かれていて、自分の外側にある「正解」を目指すことがよしとされているけど、燃え殻さんが書いているのって、自分の内側に正解を求めていくってことなのかなと思ったんです。エッセイの中で、現実の出来事をきっかけに、昔の体験をよく思い出されているじゃないですか。  読んでいると僕も自分の過去の思い出がバンバン蘇ってきて、過去と対峙しなきゃいけなくなってくる。痛い思い出もいっぱいあるし、最初はしんどかったんですが、「その時」の感覚を思い出すと、「その先」の自分のクリエイティブにも生きるなって思えるようになったんですよ。途中でそのマインドになってからはもう、楽しくて楽しくて。 燃え殻:そんなふうに読んでいただいて、うれしい……。 橘:家族で昔住んでいた家のリビングの、西日の差し具合とか思い出しました。当時はその感じが好きじゃなかったんですよ。 燃え殻:寂しくなる感じですか? 橘:ええ。でも、その寂しい感覚も、今になるといいものだったなぁと肯定できたんです。すごく好きな文章があって…… 〈日々のほとんどは、本当はグラデーションのなかにある気がする。世界平和を考えながら性欲にかられたり、金持ちになりたいと思いながら、好きなことを追い求めて世界一周に出たいと夢見たり、そんな両方を夢想しながら中目黒で満員電車を待っていたりする。まだ名前のついてない感情と出来事に囲まれて、僕たちは生きている〉。 燃え殻:今の朗読、宣伝PVで使いたい!! ※11/10発売の週刊SPA!のインタビュー連載『エッジな人々』から一部抜粋したものです 【Moegara】 ’73年、神奈川県生まれ。’17年、『ボクたちはみんな大人になれなかった』(新潮社)で小説家デビュー。今年7月、本誌連載をまとめた初エッセイ集『すべて忘れてしまうから』を刊行。『yom yom』(新潮社)で小説第2作「これはただの夏」を連載中。12月1日、人生相談本『相談の森』(ネコノス)を発売 【Kenchi Tachibana】 ’79年、神奈川県生まれ。’09年にEXILEのパフォーマーとして加入し、EXILE THE SECONDのリーダーとしても活躍。’17年6月に「たちばな書店」を始動し、本の紹介サイト、ブックフェアなどを開催。ライフワークである日本酒では全国の酒蔵巡りを行うほか、メディアを通してその魅力を発信している 取材・文/吉田大助 撮影/福本邦洋 撮影協力/本屋 B&B
燃え殻『すべて忘れてしまうから』」(扶桑社刊)

『ボクたちはみんな大人になれなかった』がベストセラーとなった燃え殻による待望の第2作。ふとした瞬間におとずれる、もう戻れない日々との再会。ときに狼狽え、ときに心揺さぶられながら、すべて忘れてしまう日常にささやかな抵抗を試みる回顧録


週刊SPA!11/17号(11/10発売)

表紙の人/ 加藤シゲアキ

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