エンタメ

逃げ出したい作家二人が逃げずに書き続ける理由<燃え殻×矢部太郎>

―[燃え殻]―
 デビュー小説がベストセラーとなった燃え殻による、週刊SPA!連載をまとめた断片的回顧録『すべて忘れてしまうから』が7月末に発売された。本作に、「眠れない夜に読むことをおすすめします。眠れなくてもいいと思える本です」と推薦文を寄せた芸人・矢部太郎と、手塚治虫文化賞を受賞した矢部の漫画『大家さんと僕』(シリーズ全2巻)の大ファンである燃え殻。 燃え殻・矢部太郎 作家として互いにリスペクトを寄せる2人による、念願の対談が実現した。

逃げたければ別に逃げちゃってもいいんだって

燃え殻:矢部さんと僕は’17年に、1冊目の本を新潮社から出しているんですよね。僕の本(小説『ボクたちはみんな大人になれなかった』)のほうが、4か月ぐらい早かったのかな。打ち合わせに行くと、よく編集者から「さっきまで矢部さんがいましたよ」と言われました。会うのは今日が初めてですけど、すれ違っている回数は多い。 矢部:そうですよね。昨年発売した僕の『大家さんと僕』の番外編本では、コラムを寄稿していただきありがとうございました。 燃え殻:僕のほうこそ! 推薦文、嬉しかったです。眠れない時に、「眠らなきゃ」と思うのが良くないんですよね。「眠れなくてもいいと思える」――そう思ってもらえるようなものが書けたんだなぁって、自信になりました。 矢部:『すべて忘れてしまうから』というタイトルもそうですけど、いい意味であきらめるというか、人生を俯瞰するみたいな印象があって。読んでいて、ラクになる気がしたんです。燃え殻さんが突然、仕事場を飛び出して旅に行っちゃう話が何回か出てくるじゃないですか。そっか、逃げたければ別に逃げちゃってもいいんだって思ったりもして……。 燃え殻:矢部さんは逃げないんですか? だったら僕のほうが社会性がない(笑)。 矢部:逃げないですね。いっつも逃げたいんですけど。

昨日、この店の前まで下見しに来てるんです

燃え殻:僕もいつも逃げたいと思ってます。例えば今日も。僕、初対面の人だと緊張しまくるんですよ。矢部さんだったら絶対怖いことは起きないとわかってるんですけど、今朝起きた時に「矢部さんとちゃんと話せるかな」と不安で仕方なくなって。 矢部:僕も、初めての人と会う時はすっごい緊張します。あと、この取材場所(新宿のバー)も来たことないっていうのでおじけづいちゃって。 燃え殻:来たことがないのは、ダメですよね。逃げたさが増す。 矢部:だから、実は昨日、この店の前まで下見しに来てるんです。 燃え殻:僕もですよ。 矢部:えっ!? 燃え殻:このお店は前に一回来たことがあるんですけど、あまりに久しぶりすぎて。自分の体に馴染ませようと思って昨日、うろうろしに来たんです。じゃあ、僕らは昨日もすれ違ってたんですね(笑)。
次のページ
我々はエモいのか? ほっこりなのか?
1
2
燃え殻『すべて忘れてしまうから』』(扶桑社刊)

『ボクたちはみんな大人になれなかった』がベストセラーとなった燃え殻による待望の第2作。ふとした瞬間におとずれる、もう戻れない日々との再会。ときに狼狽え、ときに心揺さぶられながら、すべて忘れてしまう日常にささやかな抵抗を試みる回顧録


週刊SPA!8/25号(8/18発売)

表紙の人/ 奈緒

電子雑誌版も発売中!
詳細・購入はこちらから
※バックナンバーもいつでも買って、すぐ読める!
Cxenseレコメンドウィジェット
おすすめ記事