更新日:2020年12月23日 17:22
スポーツ

盗塁王・屋鋪要が選んだ第二の人生は鉄道写真家「電車と言われるとムッとする」

7年2か月かけて日本全国すべての「静態保存機」を撮り下ろした

 引退後、2度に渡るコーチ業を終えた’06年4月、息子と行った鉄道博物館でSLを見たときに、忘れかけていた記憶が一気に蘇ったという。それ以来、幼き頃、父に連れられてSLの魅力にどんどんハマッていった。そしてまた自分の息子のきっかけによりSLの魅力を蘇らせてくれたことに不思議な縁を感じずにはいられなかったと、屋鋪はその日のことを振り返る。これがきっかけで、本格的にSLにのめり込んでいった。  最初は、携帯のカメラで撮っていたのだが、コンパクトカメラに変わり、やがては一眼レフで本格撮影に入っていった。のめり込んだらとことんやる性格のため、今も走れる「動態保存機」と、錆びて動かない「静態保存機」を含めて国内の保存機関車全601車両を7年2か月かけてすべて撮影したのだ。 「現役時代、オフになると、プロ野球選手はゴルフばっかり。僕はあまりゴルフを好きじゃなく、オフでも週4日以上は真面目に練習してましたね。元巨人の木佐貫(洋)が鉄道好きなんだけど、あいつは乗り鉄(※いろんな電車に乗ること)だからね。自分と同じように趣味を持つ選手って、ラジコン、クワガタ好きの山本昌くらいですかね。そうそう、巨人時代、(元木)大介がクワガタ好きで寮で飼育していて、つがいで息子にくれたんです。そしたら僕がハマッてしまって、クワガタのブリーダーをやってました(笑)」

クワガタのブリーダーとしての一面

 鉄道以外に多岐に渡って趣味がある屋鋪。オオクワガタのブリーダーもそのうちの1つだ。簡単にブリーダーと言っているが、相当難しい。自然界ではクワガタの幼虫は木材不朽菌に分解された朽木で勝手に育っていくが、人の手が加わるとそうもいかない。まず、𣏓木の中に小さい幼虫が埋め込まれ、ある程度大きくなったら、育成に必要なキノコの菌糸が含まれている菌糸ビンを与えるため、一匹一匹を別々に確保していく。  そして成長するごとに菌糸ビンを3、4回与え、温度管理も必須となり、非常に手間がかかる。屋鋪は年間20匹ほど、オオクワガタに成長させていたという。三拍子揃ったプロのアスリートが引退後、SLの写真を撮り、オオクワガタのブリーダーもやるとは誰が想像していただろうか。 「鉄道の友達といえば、現役のSLを撮った人たちなので70、80代のおじいちゃんばかり。そりゃ、素晴らしい写真を見せてくれ、羨ましいなといつも思います。プロ野球選手は嫌いなんです(笑)。一般人のほうがいいですよ、付き合うなら」  まさかの発言に思わず、こちらもたじろいでしまった。ある程度の成績を残した選手で、「プロ野球選手が嫌い」と言った元選手を聞いたことがない。その発言にこそ、屋鋪の第二の人生を謳歌している秘密が隠れされているのであった。
1968年生まれ。岐阜県出身。琉球大学卒。出版社勤務を経て2009年8月より沖縄在住。最新刊は『92歳、広岡達朗の正体』。著書に『確執と信念 スジを通した男たち』(扶桑社)、『第二の人生で勝ち組になる 前職:プロ野球選手』(KADOKAWA)、『まかちょーけ 興南 甲子園優勝春夏連覇のその後』、『偏差値70の甲子園 ―僕たちは文武両道で東大を目指す―』、映画化にもなった『沖縄を変えた男 栽弘義 ―高校野球に捧げた生涯』、『偏差値70からの甲子園 ―僕たちは野球も学業も頂点を目指す―』、(ともに集英社文庫)、『善と悪 江夏豊ラストメッセージ』、『最後の黄金世代 遠藤保仁』、『史上最速の甲子園 創志学園野球部の奇跡』『沖縄のおさんぽ』(ともにKADOKAWA)、『マウンドに散った天才投手』(講談社+α文庫)、『永遠の一球 ―甲子園優勝投手のその後―』(河出書房新社)などがある。

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