更新日:2020年12月16日 18:15
スポーツ

悲運のプロ野球新人王・森田幸一を襲ったゴシップ騒動。ケガ、そして引退

森田幸一

現在は大阪で会社員として生活する森田幸一氏

「奇跡を呼ぶ男」と呼ばれた元中日ドラゴンズ、森田幸一氏。前編はデビューから起用方法を巡る対立からトレード志願をしたことまでを聞いた。後編では、トレード志願の裏側、そしてユニフォームを脱いだ今に至るまでを聞いた。

独り歩きした移籍の理由

 リークされてしまったものは仕方がないが、トレードの理由としてマスコミに広がったのはとんでもない理由だった。“在京球団トレード志願に女性の影!?”というスキャンダラスめいたキャッチが週刊誌等に踊った。このことについて、森田に直接真相を聞いてみた。 「これね、知っていますよ。なんでこんな記事が出たんでしょうね。一滴も酒も飲めないのに、赤坂のクラブに通うなんてね~。デタラメもいいとこで、あの時は好き放題に書かれました」  こうした騒ぎは、もちろん本人の耳にも入っていた。だが、球団代表は森田のトレード理由を「家庭の事情」とぼやかしたことで、噂が噂を呼んでしまった。そう、今で言う炎上である。そのためか、マスコミの捏造による記事が出てしまったというわけだ。  だが、球団の姿勢にも同情すべき点はある。まさか起用法への不満という球団批判ともとれる理由でトレードを認めたことが明らかになったら、球団としては他の選手に示しがつかない。森田ほどの選手を中日側がトレードで出すとなると、他球団はまず怪我による故障と勘ぐることも十分に考えられた。そうならないためにも“家庭の事情”という曖昧な理由でぼやかすしかなかったのだ。

自動車事故で根も葉もない噂が……

 また、この年、森田は自動車事故も起こしてしまっていることも、大きなマイナスイメージを引き起こしてしまった。プロ野球選手が起こす自動車事故の社会的影響は大きい。球団によっては自動車事故を起こした者に対して、厳重な処分を下すことも珍しくない。しかし、このトレード騒動で自動車事故についても根も葉もない噂がたってしまった。暴力団関係者の車と事故を起こしたため多額の賠償金を球団側が肩代わりをしたなど、あたかも自動車事故により球団と森田は軋轢を生じている噂が拡散していったのである。 「在京希望なんて一言も言ってませんから。トレードしてくれるのならどこだってよかったんです。凄いですよね」  今まで温和で話していた森田がこの時だけほんの少しだけ語気を強めた。最後の“凄いですよね”という言葉に森田の本当の思いが隠されているように感じられた。当時、中日の選手たちの管理は甘く、門限もあまりうるさくなかった。そのため選手たちは好き放題できたという。思い当たる様々な要素が加わり、森田はマスコミの格好の餌食となってしまったのである。
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難航した移籍交渉
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1968年生まれ。岐阜県出身。琉球大学卒。出版社勤務を経て2009年8月より沖縄在住。最新刊は『92歳、広岡達朗の正体』。著書に『確執と信念 スジを通した男たち』(扶桑社)、『第二の人生で勝ち組になる 前職:プロ野球選手』(KADOKAWA)、『まかちょーけ 興南 甲子園優勝春夏連覇のその後』、『偏差値70の甲子園 ―僕たちは文武両道で東大を目指す―』、映画化にもなった『沖縄を変えた男 栽弘義 ―高校野球に捧げた生涯』、『偏差値70からの甲子園 ―僕たちは野球も学業も頂点を目指す―』、(ともに集英社文庫)、『善と悪 江夏豊ラストメッセージ』、『最後の黄金世代 遠藤保仁』、『史上最速の甲子園 創志学園野球部の奇跡』『沖縄のおさんぽ』(ともにKADOKAWA)、『マウンドに散った天才投手』(講談社+α文庫)、『永遠の一球 ―甲子園優勝投手のその後―』(河出書房新社)などがある。

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