すしざんまい
この日僕が選んだのは「すしざんまい」という台だった。すしざんまいの社長が全面に押し出されたハネモノ台で、当たると7,000発、2万5,000円近く手に入るという刺激的な台だ。ポケットの中からくしゃくしゃの札を出して数えてみると4枚あった。
負けたら4,000円、当たれば25,000円。
完全にプラスだ。
25,000円が当たるものと信じ、ウキウキで台に座る。このために早く神田にきたわけではないが、流石に高揚していた。パチンコは打たない時にはくだらない遊びにしか見えないが、実際に台に座ると勝負になる。当事者からしてみれば、パチンコも戦争も遊びじゃない。
調子のいい令和3年、僕はトイレの神様の加護もあって500円で当たった。25,000発が吐き出される。この間なんと15分。時給10万円。この台を選んだ僕の慧眼を褒めてやりたい。
席を立ち上がって、バイト先でこの慶事を報告する準備をしていると、台がざわめいている。
「茶柱……立っちゃった? 立っちゃった? 茶柱立っちゃった?」
すしざんまいは10%という限りなく小さい確率で連チャンする珍しい機種だった。他のパチンコ台の連チャン確率が80%近くなので、これは無いに等しい。
あり得ないプレゼントに涙が出そうになる。すしざんまいの社長がドット絵で茶柱を祝福している。
「茶柱立っちゃった? 立っちゃった? 立っちゃった?」
バカにしているような歌がベートーヴェン:交響曲第9番に聞こえる。人生賛歌だ。
これで5万円。時間を確認すると30分前。もう一度連チャンすれば遅刻ギリギリになってしまうかもしれない。だが10%を2回引く確率は単純計算で1%、これはもう奇跡に近い。宝くじレベルだ。
僕は精神の深いところまで「遅刻したくないから外れてくれよ」と祈った。ギャンブルの行く末は大抵、思わぬ方向へと進む。さっきはまさか連チャンなんて存在してないと思っていたからこそのプレゼント。意識してしまった以上もう一度この当たりをもらうためには、連チャンが不本意でなければならない。
「もうええって(笑)」 or 「当たれば7万円」
俗に染まった二匹の怪物が心の中でせめぎ合う。自分の心が真っ二つに分かれて頭がおかしくなりそうだった。
連チャンチャレンジになる。
「茶柱……立っちゃった?」
僕は、すしざんまいの社長に一生ついていきます。
バイト先には10分遅れて着いた。茶柱が立ってしまった以上仕方がない。
「Pすしざんまい極上5700」。茶柱の曲名は「茶柱タツオ77歳」だった。
〈文/犬〉
フィリピンのカジノで1万円が700万円になった経験からカジノにドはまり。その後仕事を辞めて、全財産をかけてカジノに乗り込んだが、そこで大負け。全財産を失い借金まみれに。その後は職を転々としつつ、総額500万円にもなる借金を返す日々。Twitter、noteでカジノですべてを失った経験や、日々のギャンブル遊びについて情報を発信している。
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賭博狂の詩