更新日:2021年06月04日 11:17
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「常に己の身を律し続けた」東海林のり子の20年間のリポーター人生

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<東海林のり子・第5回>

 阪神淡路大震災の現場を経て、東海林のり子は事件リポーターからの引退を決めた。このときの取材で受けた喪失感は、それまでのどの現場よりも大きかった。そして、「私たちが伝えられることは何なのか? テレビは何をできるのか?」を自問自答した結果、導き出したのが「引退」という決断だった。 「40歳のときにリポーターになって、60歳のときにリポーターをやめました。あっという間の20年間だったけど、常に真摯に事件や災害に向き合ってきました。夢中で仕事してきました。精神的に辛いことはたくさんあったけど、仕事はどんどん面白くなってきて、ある頃には『もしかしたら、自分にやれないことはないんじゃないかしら?』という変な自信も出てきて……。あっという間の20年間でしたね」  いつ現場に呼ばれるかわからない。事件にも、葬儀にも対応できるように、常に黒い服を着て、カバンには数珠と清めの塩をしのばせていた。自らが報じる立場であるからこそ、常に生活を律するように心がけていた。各局のリポーターたちの生きざまを描いた『ワイドショー物語』(柏木純一/毎日新聞社)には、57歳当時の東海林のこんな言葉が紹介されている。 「私たちの仕事は言ってみれば他人のことをああだ、こうだ、と言うようなもの、それなのに、そう言っている本人が、例えば、お酒、異性、おカネ、などでトラブルを起こすということはリポーターとして資質に欠けると思います。ですから、私の場合はお酒を飲んでも決して醜態は見せませんし、不倫もしません。(中略)日常的に己を律していなければいけないのです」  そして、こんな言葉が続いている。 「本人は気がつかないつもりでも、テレビの画面には生身の姿が映し出されてしまいます。特にそうした隠れた面を女性の視聴者は厳しく見抜きますからね」  改めて、東海林は言う。 「自分の身を律するのは当然のこと。そして、倒れちゃいけないということもずっと心がけていました。特に何か健康法を実践していたわけじゃないけど、『いつでも、すぐに現場に駆けつけなくちゃ』という思いがあったから、ずっと健康で過ごせたんだと思います。リポーターをやっていた20年間、風邪ひとつ引かなかったから。やっぱり、勢いもあったし、仕事に対する熱意もあったからね」 情熱とともに駆け抜けた、あっという間の20年間だった。

現在のワイドショーに対するある不満

 現場に出ることはなくなったが、86歳となった現在でも、ラジオパーソナリティーの仕事を中心に、テレビやネット配信、講演会など精力的な活動を続けている。そんな東海林の目に、現在のワイドショーは、そしてリポーターたちは、どのように映っているのか? 質問を投げかけると、意外な言葉が飛び出した。 「もう、ワイドショーは見なくてもいいんじゃない?」  その強い口調に驚きつつ、この言葉の真意を尋ねる。東海林は普段の穏やかな口調に戻っている。 「昔のワイドショーは、ニュース番組、報道局、報道記者たちが見落としたこと、掬いきれないことを埋めていたと思うんです。だから、私たちリポーターは現場に行って、彼らが見落としたものを一生懸命リポートしました。でも、今はテレビなのに画(え)が見えないでしょ……」  テレビなのに画が見えない――。東海林の言葉はさらに続く。 「今のワイドショーは現場に行かずに、スタジオからパネルで事件を解説していますよね。時代とともに取材方法が変わるのは必然なのかもしれないけど、私は納得はできないです。それじゃあ作っている方も、見ている方も熱くなれないでしょ。熱くなるのは、誰かが失言したときぐらい(笑)。やっぱり、私は現場が一番だと思っているので……」  現在のワイドショーでは、『週刊文春』をはじめとする週刊誌や、新聞各紙の記事を引用したり、TwitterやYouTubeなどのSNSを紹介するパネルを多用しながら番組が作られることが多い。時代が変わった。視聴者の志向も変わった。それでも、不変のものがある。東海林はそう考えている。 「携帯電話の普及もあって、今は《映像・視聴者提供》というものが増えているでしょ。でも、それじゃあ熱くなれないのよ。私たちの頃はカメラマンに対して、(アンタ、何で撮れなかったの? もっと早く行けば撮れたでしょ)みたいな言い争いはしょっちゅうでした。それぐらい苦労して撮ってきたからみんなが熱くなれたし、視聴者にも届いたと思うんです」
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生まれ変わっても、リポーターになりたい
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1970年、東京都生まれ。出版社勤務を経てノンフィクションライターに。著書に『詰むや、詰まざるや〜森・西武vs野村・ヤクルトの2年間』(インプレス)、『中野ブロードウェイ物語』(亜紀書房)など多数

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