更新日:2021年07月29日 12:06
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「バッハ会長、あなたはウソつきだ」本人を直撃した記者が伝えたかったこと

広島訪問のバッハ会長を直撃するため、広島空港へ

広島平和公園で献花をしたバッハ会長に対して、抗議活動をする広島市民有志

広島平和公園で献花をしたバッハ会長に対して、抗議活動をする広島市民有志

 しかしバッハ会長は、筆者の声掛けの主旨を理解することもなく、自らの発言を訂正する素振りも見せなかった。そこで翌7月16日、広島訪問予定のバッハ会長への再直撃を狙って、広島空港で待ち構えることにした。都庁での直撃が途中で遮られたため、言い残してしまった文言をぶつけてみようと思ったのだ。  16日10時すぎ、広島空港にはすでに報道関係者が駆けつけていた。地元テレビ局の記者は「バッハ会長が有観客を菅首相に提案したことについて聞いてみたい」と意気込み、その後に私も続こうと思っていた。しかし、警備体制は予想以上に厳しかった。  報道陣がVIP用空港出口に近づけないように広島県警の警察官が規制線を張り、バッハ会長に声が届く範囲への接近を阻んでいたのだ。到着時間が近づくと、出口の前に黒いバンが横付けされて、一瞬バッハ会長の横顔が見えた。しかし、5秒足らずで車内へと乗り込んでしまった。  バッハ会長が平和記念公園で献花した後、湯崎英彦知事や被曝者らと面談した時も、厳戒態勢は続いていた。普段は誰もが入れる平和記念公園への立ち入りが、その時間帯は禁止されていたのだ。  そのためバッハ会長の広島訪問に抗議する市民有志は、献花台に最も近づける公道に集合して、マイクを使ってデモ行進を始めた。「バッハは広島を利用するな! 広島は命を大切にする。命を大切にしないバッハは帰れ! 人殺しオリンピック反対。“ぼったくり男爵”は帰れ!」という訴えが大音量で繰り返され、「Go out Bach(バッハは出ていけ)」と連呼していった。  デモを主催した久野成章氏は終了後、囲み取材で地元記者から「今日は人類初の核実験が行われた日ですが、その日にバッハ会長が訪問されたことはどう思いますか」と聞かれて、こう答えた。 「バッハ会長には、その日についてまったく知識がないということです」

「日本は独裁国家に逆戻りしてしまったのか」との錯覚に陥った

 広島では二度目のバッハ会長直撃はできなかったが、東京五輪公式映画監督を務める河瀬直美監督と話をすることができた。平和記念公園近くのホテルで待機している時のことで、「バッハ会長と同じ便で広島入りをした」という河瀬監督に、緊急事態宣言下での五輪開催について聞いてみたのだ。 ――緊急事態宣言下での五輪開催についてはどう思われますか? 河瀬監督:大変ですね。こんなところでオリンピックをやれるのも、やる国も日本ぐらいなのかなと思ったりします。反対の意見もたくさんありますが、こんな状況でもやるというのは、他の国ではできないのではないでしょうか。 ――独裁国家に近いような……。政府が(反対意見を)抑え込んでいると。 河瀬監督:ありがとうございます。  羽田空港でも広島でも、日本が民主主義国家から一昔前の独裁国家へと逆戻りしたかのような錯覚に陥った。バッハ会長は17日の来日後初の記者会見でも「コロナ対策は機能している」と発言した。こうした事実とは異なる「安心安全」が強調されたまま、情報公開も不十分で取材の自由もない。そして、菅首相と小池知事らは下僕のようにバッハ会長に付き従い、国民の不安や中止・延期を望む声を無視してオリンピックの開催を強行した。日本人の命が軽んじられる異常事態は、いつまで続くのだろうか。  なおバッハ会長への声掛けは、小池知事の“記者排除”の産物でもある。筆者は都知事会見で「排除」発言を引き出した2017年9月以降、3年9か月にわたって質問者として指されていない。そこで筆者は、会見終了直後に退出する小池知事に向かって声掛け質問を続けてきた(横田一著『仮面 虚飾の女帝・小池百合子』の冒頭で紹介)。短いフレーズでインパクトのある言葉をぶつける経験を重ねてきたことが、バッハ会長への声掛けに役立ったのだ。 文・写真/横田 一
ジャーナリスト。『仮面 虚飾の女帝・小池百合子』(扶桑社)、小泉純一郎元首相の「原発ゼロ」に関する発言をまとめた『黙って寝てはいられない』(小泉純一郎/談、吉原毅/編)編集協力、『検証・小池都政』(緑風出版)など著書多数
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『仮面 虚飾の女帝・小池百合子』

選挙や五輪を優先して、コロナ感染爆発を招いた小池百合子東京都知事。 都民のためでも、国民のためでもない、すべては「自分ファースト」だ!

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