お金

借金500万円男。パチンコの景品を冷やして飲む「贅沢なひととき」を過ごす

値引き交渉で余計な一言を口走る

 各コーナーで一番安い製品に目星をつけておく。洗濯機と冷蔵庫がそれぞれ2万円、電子レンジが7千円だった。勇んでビックカメラに向かった割には大手メーカーには到底手が届かず、結局ドンキホーテに置いてあるような見知らぬメーカーの家電を選ぶことになりそうだ。ちなみに知っているメーカーは軒並み5万円を超えてしまっていた。 「こんな値段じゃ高卒は誰も買えないよ……」  僕は現場を知らない大企業を想って嘆いた。 「すいません、これ3つまとめて買うんで安くならないですか?」  合わせて4万7千円の投げ売りセール品のタグを持ち、できるだけ優しそうな店員に話しかける。 「まあ要らないんですけどね、もしもうちょっと安いのがあるならまあ、買ってもいいかな〜、なんて」  僕は恥ずかしい感情があると余計な事を口走ってしまう性格なので、本当に要らない事を口走った。この店で一番安い家電を探してきてこんなダサい事を言ってしまう自分が憎い。  キャバクラの店員として働いていた時、似た光景を見た。明らかに1セットで遊ぶのがギリギリの人の席に延長交渉に行った際、同じような事を言われたことがある。 「結構忙しいんだけど、そっから千円安くなるならこの子と居てもいいんだけどね〜」  かつて唾棄した彼らの姿が自分に重なる。金を失う覚悟はできているが、それはそれとして悔しいのだ。その千円を惜しいと思ってしまう自分に対しても、そんな自分の気持ちを到底理解できないであろう店に対しても。

送料無料で夢を見る

 ビックカメラの店員は値段を見るや「難しいでしょうね」と答えた。 「ですよね〜」  ジャブは不発に終わった。避けられるどころか素手で受け止められてしまった。二の矢は無い。本来なら少しでも安くなるように粘るところだったが、わざわざ貴族の街で大騒ぎするほどはしたない自分ではいたくなかった。 「それでは設置と配送料なのですが……」  店員から残酷すぎる追撃をもらう。それはそうだ。家電の設置にも人が動く。そのための研修を受け、生活の基盤となる者も多くいるに違いない。この社会は、世の中の繁栄は、想像しているよりもずっと多くの人間が支えているのだ。  自分一人で生きていると思い込んでいる人間の驕りに気付かされた。僕も洗濯機の設置のバイトをしたことがある。家電にまつわる全ての記憶が走馬灯になって瞼の裏を巡った。 「この地域にお住まいでビックカメラ会員の方なら無料となります」 「え?」 「お住まいはお近くですか?」  おそらくたった数千円で走馬灯を見た僕は、本当の死に際には終わらない夢を見るのかもしれない。
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冷蔵庫購入で贅沢な時が……
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フィリピンのカジノで1万円が700万円になった経験からカジノにドはまり。その後仕事を辞めて、全財産をかけてカジノに乗り込んだが、そこで大負け。全財産を失い借金まみれに。その後は職を転々としつつ、総額500万円にもなる借金を返す日々。Twitter、noteでカジノですべてを失った経験や、日々のギャンブル遊びについて情報を発信している。 Twitter→@slave_of_girls note→ギャンブル依存症 Youtube→賭博狂の詩

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